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眠りについたときは最高の気分だったはずだが、今は最悪だった。
寝不足でまぶたはぴくぴくするし、吐きそうだし、また上司のデスクに呼び出されてるし。
「見積もり、間違ってる」
「え、でもそれは――」
あんたの指示通り作っただけだけど。
喉元まで出かかった言葉をぐっと飲み込む。オフィス中の女子社員が一瞬だけこちらに向けられ、また戻る。「なんだ、またあいつか」という声が聞こえてきそうだ。「たとえ一瞬でも見て損した」「まぶたの上げ下げすら無駄」とか。
結局「すぐ作り直します」としか言えずに席に戻る。すると、出しっぱなしにしていたスマホに、メールの着信があった。
投稿サイトにコメントの書き込みがあったという知らせだ。
えっマジか。
誰かが見たのか?
昨日さらさらっと俺の書いたものを??
頭の中で「重版出来!」という文字が点滅する。(今もって読み方はわからない)
俺はトイレの個室に駆け込んだ。初めて書いた小説。その日のうちについたコメント――俺は、俺には、俺自身気がつかなかった才能があったのか。
まあそうだと思ってたけど。
洞窟の奥の宝箱を開けるような気持ちでコメント欄を開くと、こう書いてあった。
『キモ』
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