5、失望

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5、失望

「うん!ロールケーキでも美味しいじゃん!さすがシャントルメだよねー。」 陽は少し体を躍らせながらロールケーキを頬張っていた。 (ロールケーキでもってまた言った。) 唯はまたカチンと来たが、そのままケーキを食べ続けた。 「今日は仕事休んだの?」 唯は下を向いたまま話した。 「え、うんまあね。なんか昨日から肩が痛くてさ。無理して悪化したらダメ出し。」 陽は声のトーンを下げ、どうでもいいことのように話した。 「ふーん。そうなんだ。」 唯もどうでもいいことのように答えた。 (肩が痛いのはゲームを夜遅くまでしてるからじゃないの。) 本当は、そう言いたかったが、言っても喧嘩になるだけだからやめた。 「つめたっ!!もー大丈夫とか言ってよー。思いやりないなぁ。」 陽は子供のようにぷうっと頬を膨らませた。 (本当に・・この人は・・。) 唯が少し笑って何も言わないでいると、 「唯こそ、どうしたの?こんなケーキ買ってきて、珍しい。なんかいい事あったの?」 と陽が顔を近づけて言った。 「えっと・・。」 くっきりした目に長いまつげ。整えていないのにサラリとした髪。付き合って2年半たった今も、この綺麗な顔にはドキッとしてしまう。 「あ、なんか隠してる。」 陽はさらに顔を近づけ、また唯の唇にキスをした。 ふんわり匂う生クリームのにおい。本当は言わないでおこうと思ったが、ふわふわとしたこの香に口が開いた。 「実はね、今の事務所が正社員にならないかって。私が頑張ってるのを評価してくれて・・。」 唯がそういうと、陽は立ち上がって、 「えぇ!マジ!?やったじゃん唯!!」 と両手を上げて喜んだ。 唯は顔を赤らめて、 「え、そんなに喜んでくれるの・・。なんか感動・・。」 と少し目が潤んだ。自分の仕事にあまり興味のなかった陽がこんなに喜んでくれている。陽もちゃんと自分を見てくれてるんだなと唯は胸が熱くなった。 「もちろん!だって唯が正社員になるってことは、お給料も上がるしボーナスもあるんでしょ?僕さ、本当にこのeスポーツに専念したかったんだ!これで僕も働かなくてもやっていけるよね?僕がeスポーツで優勝したら、真っ先に唯の名前を呼ぶから!期待しててよ!」 陽はそう言うと、コーヒーを一気飲みし、 「よーし、頑張って攻略するぞー!」 と次はパソコンを開いてヘッドホンをし、ソファで何やらゲームをやり始めた。 唯は唖然とした。何も言葉が出なかった。そして陽の背中をずっと見ていると、陽が振り返って、 「ねえねえ。ここにリクライニングチェアと机買わない?やっぱりソファとこのローテーブルではやりにくくってさぁ。eスポーツもスポーツだから、疲れない椅子が必要なんだよねー。ほら、陸上のスパイクと同じだよ。」 と無邪気に笑いながら言った。 唯は何回か瞬きをし、心拍数が上昇するのを感じた。そして陽を無視して、まだロールケーキが残っている皿を片付け台所に向かった。 陽は、 「もうー。無視かよー。」 といい、またゲームに戻った。 (もうやっぱり限界だ。) 唯はだんだん目がうるんで皿が見えなくなった。あんなにほしかった洋菓子屋のロールケーキも半分残してしまった。 唯は、何も言わず、隣の寝室にしている部屋に行き、ベッドに横になった。 (なんで私、こんな人と付き合ってるんだろう。) 唯は携帯を開いて 「恋人との別れ方」 と検索した。恨まれないように別れる方法や、傷つけないような別れ方が書いていたが、どれも自分にできそうになかった。 (話し合いになったらきっと言いくるめられてしまう。どうしたらこの状況から逃げれるんだろう。) 次に、「男から 逃げる」と検索した。 すると「女達の復讐」という気になるサイトを発見した。 (なんだろう。これ。) 開いてみると、自分と同じような境遇、もしくはそれ以上のひどい男と付き合っていたり結婚したりしている女性たちの書き込みが大量にあった。その中でたった今更新された、 「今日もモラハラ、生活費5万円。旦那は愛人の所」 という書き込みを開いてみた。 「とにかく私に否定的。子供ができないのも私のせい。お前は頭が悪いから働けない。5万も渡してるんだからそのない頭で考えてやりくりしろ。とモラハラ発言。子供ができないのはセックスレスだからだろう。光熱費も5万からはらってどうやって食費と日用品を購入するの。しかもおかずは3品以上とか文句つける。私がパートに出るというとお前みたいなのが働けるのかと馬鹿にして働かせてくれない。束縛もひどい。今は独身時代に貯めた貯金を切り崩している。この前、帰りが遅いから携帯を見てみたら、女と連絡しているのを発見した。問いただしても逆に携帯見たのをプライバシーの侵害だのなんだのと怒り暴れだし、リビングはぐちゃぐちゃ。私が頼れる親族がいないのをいいことに義理母や義理姉にも連絡し、なぜか私が説教を受ける。浮気されるほうも原因があると。もう限界。逃げたい。」 (逃げたい。私と同じだ。) 少し自分とは境遇が違うが、この書き込みの主と話したくなった。唯はこのサイトに登録し、メッセージを送ることにした。 「私も、逃げたいです。」 このメッセージが全ての始まりだった。
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