◆出会い◆

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イヴは、国際科学特別研究所―通称『科特研』―が最近開発した、限りなく『理想のヒト』に近いアンドロイドだ。『理想の』、つまり、ひとりで完結する、両性具有のアンドロイドである。確かにその中性的な容姿や声、髪型までも、男性に寄せているとはいえ、どこか性的に未熟な世代の子供のように不思議な空気に包まれた雰囲気を醸し出していた。 その、幼いながらも輝く美貌に少々惑いながらも、こんな姿かたちをしていて果たして我が社の業務に対応できる能力があるのだろうかと、ぼくは隣で淡々と作業を進めているイヴを見て少々不安に思った。 しかしその不安は杞憂に終わる。 我が社は自社製品を開発、宣伝、販売するメーカーだ。イヴはぼくが長を務めるマーケティング部で、初日から素晴らしい能力を発揮してくれた。 データ解析はもちろん、改善点から改善案まで、部署の誰もが思いつかない視点から指摘し、自らプログラムを組んで、自分の発言どおりに従来のプログラムの脆弱な部分を補強していった。その働きぶりは社内でもあっという間に評判になり、名目上指導者であるぼくの評価もぐんぐんと伸びていったのだった。 反面、イヴは表情の変化があまりない上、雑談をしないため、周囲に冷たい印象を与えており、その仕事能力も相まって皆から少し距離を持って接せられていた。実際部署の他の社員からは、 「イヴ、確かに有能なんだけど…、ちょっと取っつきづらくてどう接したらいいのか…」 という相談のような発言もあった。しかし仕事が完璧な以上、会社として人間関係にどこまで踏み込んでいいのかぼく自身悩むところでもあり、 「まあ、長い目でみて付き合っていこう」 と気休めを言うしかできない。 そんなイヴには、皆と円滑にやっていく努力をしてもらいたいとも思っていたが、業務に関係ない以上その部分を指導するのもどうなものかと、イヴが来て1週間たつ今の、ぼくの目下の悩みの種となっていた。
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