20人が本棚に入れています
本棚に追加
/137ページ
その週末金曜日、イヴの歓迎会を開くことになっていた。カジュアルなバルで各々好きなものを注文するスタイルでの飲み会だ。
これはチャンスだと思い、ぼくはイヴに声をかけた。
「イヴ、週末は君の歓迎会だね」
「はい」
いつも通り冷静に答えるイヴ。そのイヴの目をのぞき込むように、
「歓迎会の主役なんだし、その日はいつもと少し雰囲気を変えてみたらどう?」
「雰囲気を変える? とは?」
「例えば、そうだな、君はいつもブラックのスーツだけど、その日はもっとカジュアルな恰好にしてみるとか」
「ですが、歓迎会は仕事後と聞いています。仕事でカジュアルな恰好というのは、私が思うに、あまりよろしくないのではないかと」
「この会社はそこまで堅苦しくないから大丈夫。特に週末はね、仕事帰りに遊びに行く人たちなんかは相当カジュアルな恰好で来てたりするからさ。だから君も固く考えないで大丈夫だよ。ぼくも当日はラフなジーンズでも着ようかと思っているし」
イヴはしばらく考えたあと、
「カナタがジーンズで参加するなら…、そうですね、私も少しカジュアルな恰好で参加しようかと思います」
そう言って少しはにかんだような笑顔を見せた。
こんな表情もするのか。こう言っていいのか悩むが、それは赤ん坊のような、とても無垢で愛らしい表情だった。こういう風に、少しづつ距離が縮まっていけばいい。
最初のコメントを投稿しよう!