◆出会い◆

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歓迎会当日の朝、いつものように給湯室で珈琲を淹れデスクへ戻るところで、今日もちょうど出社してきたイヴとばったり会った。イヴは私に気づくと薄く笑みを浮かべ 「おはようございます、カナタ」 と挨拶をしてきた。 「…おはようイヴ」 吃驚して、返事が少し遅れてしまう。何故って、今日のイヴはいつもの黒いスーツではなく、臙脂基調のレトロなボタニカル柄のシャツに、カーキ色のタイトなカーゴパンツ、それにいつもは立たせている前髪をソフトモヒカンにアレンジしていたからだ。耳には小ぶりな金色のピアスをつけていて、その光が朝日を反射してキラキラとイヴの周りを光の環で彩っている。 「カナタに言われたとおり、カジュアルな服装にしてみましたが、どうでしょうか」 「とてもいいね、よく似合ってる」 イヴに問われ、思わず見とれていたことを誤魔化すために、急いで返事をする。ぼくの答えに、イヴは満足そうな顔で「良かった」と先ほどより深い笑みを落とした。 部屋のドアを開け、イヴに先に入るよう促し、後をついていく形で自席に戻る。 一度デスクに置いた珈琲カップを手に取り、一口すする。目はモニターを追っているが、神経は隣のイヴに集中していた。 マニッシュな装いのはずなのに、何故か今日のイヴには妙な色気があった。少年から青年に差し掛かろうとするあの危うい季節の子供のように、目を離したら二度と同じ表情は見られない、そんな儚さすら伴った艶やかさだった。 社内の人間も皆、イヴのその色気に気づいているのか、ちらちらとイヴを盗み見している人ばかりだ。女性は頬を蒸気させ、男性は目をぎらつかせ、そしてそれぞれその感情を他の人に見取られまいと仕事に集中しているふりをする。 …今夜の歓迎会では、一波乱あるかもしれないな。 そんなことを思いながら、ぼくもモニターを凝視して瞬きしない黒い瞳を盗み見た。
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