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外に出ると、モールの灯りが眩しいくらいに夜道を照らしていた。店の外に置かれたベンチまでイヴを誘導し、一緒に腰を下ろす。そこでやっとぼくはイヴの肩から腕を外した。
「ありがとうございます」
ほんのり頬を蒸気させたイヴが、笑顔でお礼を言う。
「ハヤトのあれは完全にセクハラだったからな。上司として当然だ」
モールを行きかう人々に視線をやりながら答えると、イヴは「そうですね」と答え、俯いた。
しばらく沈黙が続く。先に破ったのはイヴだった。
「私は『限りなくヒトに近いモノ』として作られたので、先ほどのハヤトの言うこともわかるつもりです」
肩からかけている小さなバッグの持ち手を見つめながらイヴが言う。
「ただ、プログラムされていない感情というか…、どういえば伝わりますかね、問題なく社会生活を送れる感情はありますが、恋愛感情というものが私の中にあるのかどうかは、自分でもわからないんです」
「それは、もともとプログラムされていないと持てない感情なのか?」
問うと、イヴがぼくを見上げて言った。
「それもわかりません。実際、私はこの一週間で新しい仕事を覚えるやりがいという喜びを知りました。これはカナタのチームに入るまで持ったことのない感情です。だから」
「同じように、誰かに恋をすることもあるかもしれない?」
かぶせるように訊くと、イヴは真剣な目をしてうなづいた。
「はい」
「そうか」
視線をイヴから外して、また行きかう人に目をやる。恋に落ちるまで恋を知らないところまで、人間と同じなんだな、と思いながら。
「恋愛、してみたいな」
イヴがそうつぶやいたのが聞こえた。
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