公園にさようなら

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公園にさようなら

 会社に行く途中、いつも通る公園には三毛猫がいる。  朝も夜もベンチでリラックスしている姿をよく見かける。  近寄っても逃げないのは人馴れしているからだろうか。  しかし触ろうとすると華麗に右へ左へと避け触らせてはくれない。  昼間は何をしているのだろうか?何を食べているのだろうか?とあれこれ考えるくらい私はその猫の事が気になっていた。  エサをあげてみようかと考えた事もあったが止めた。  エサをあげるなら責任を持って飼うべきで、怪我や病気になったらちゃんと病院に連れて行くべき。  そう思い自分の生活費でいっぱいいっぱいの私には難しいと思った。  夜の帰り道、いつものように猫のいるベンチの方へ近寄り視線の高さを合わせ「こんばんは」と挨拶をする。 「今日は満月だね」  親指と人差し指で四角い形を作りその中に収めた月と猫は絵になった。  次の日、いつものように「おはよう」と挨拶をしようとしたが、ベンチに猫の姿はなかった。  辺りを見渡すと滑り台の下の空間でぐったりしていた。  私は急いで病院に連れて行き診てもらうと食中毒と判明。  野良と言う事もあり2、3日入院する事に。  入院費などは貯金を切り崩し出した。  しばらくして私は転勤となった。  あの猫はあれから元気になり飼いたいと言う人がいて飼い猫に。  引っ越し前、最後の日に公園に行くとあの猫がベンチにいた。  近寄りしゃがむとベンチから降り私に甘えるように身体をくっつけてきた。  手に触れたので触ってみると満足そうな表情を浮かべその場に寝転ぶ。  その猫の柔らかさ暖かさ、それは最初で最後に感じたからか特別なものに思えた。  おだやかな時間を過ごし、お別れの挨拶をする。 「またいつか会う日まで、さようなら」
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