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林間学校①
入学式から2週間が過ぎた。
入学式後のホームルームで言っていたように1年生のこの時期に林間学校に行く。理由は簡単で、生徒同士のコミュニケーションを高めてもらうためだ。
この行事のおかげで友達が作れたという声が毎年多い。
またこの行事でクラスの中での自分の立ち位置やキャラが固まったと言う生徒も多い。
学校には大型バスを何台も止められるスペースがないため市役所の大駐車場を借りる。
匠は他の先生と同じように2組の列の前に立っていた。
隣には紗椰もいる。
何をしているかというと生徒が全員来たかどうかの点呼をしている。
とは言っても点呼をしているのは紗椰なのだが。
「松雪先生、あと1人来ていない生徒が・・・・・・」
「誰です?」
「えっと、綿貫さんです」
綿貫 莉子。クラスで結構目立っている人物だ。
別に目をつけられている訳ではないがたまに元気すぎるのがいたい。
「双葉先生、それ本当ですか?」
「ええそうなのよ、伊織君」
伊織 穂高。このクラスの中心人物にしてクラス代表。
学力面、スポーツ面の両方ですでに注目されている。
「じゃあ、俺が探してきます。もしかしたらこの辺で迷っているのかも」
穂高が自分の荷物を地面に置きながら言った。
「伊織君だめよ。こういうときは先生に任せて」
「でも先生がいなくなったら、クラスの他の人たちはどうするんですか」
「それは・・・・・・他の先生に任せてでも・・・・・・」
紗椰の声が徐々に小さくなる。
確かに穂高の言うとおりだ。だが生徒が動く場面でもないかもしれない。
匠は動くべきなのかどうか迷っていた。すると、
「困っているかもしれない人を見捨てられるわけないじゃないですか!」
穂高が強く言った。
(「先生ってどうしてそんなに問題解けるんですか?」
「まぁ、松雪よりも長く勉強してるからな」
高校時代の匠の声。それに女性の声。
「それでも、まだまだ勉強不足だな」
「どうしてですか? 十分じゃないですか?」
「そうでもないぞ。私はいつもお前たちに質問に来られたときにヒヤヒヤするんだ」
「そんなことないでしょ」
女性教師は首を振る。
「もしもお前たちが私の知識以上の質問をしてきてそれに答えられなかったらどうしようかと思うんだ」
女性教師は匠に笑いかける。
「困っているお前たちの力になれないのが怖いんだよ。困っている人を見捨てられないからな」)
匠は思い出の高校教師を思い出していた。
現実から離れていたのはほんの数秒だっただろうが、匠には数分、数時間のように感じられた。
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