林間学校①

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「俺もう行きます」 「伊織君、だめよ」  紗椰から制止の声がかけられているにもかかわらず穂高は莉子を探しに行こうとした。  そのとき、 「すみません。遅れました」  不意に声が聞こえた。 「綿貫さん!大丈夫だったの?」 「すみません、楽しみすぎて昨日寝られなくて。でもちょっと寝ておこうと思ったら寝過ぎちゃって」  えへへ、と言う実況が入りそうな笑いをする。 「・・・・・・まぁ、無事なら大丈夫よ。ギリギリ遅刻でもないし」 「はーい!」  と言って莉子は列の自分の居場所に行った。  (俺はどうすればよかったんだ・・・・・・)  匠は何をすべきだったのか考えていた・・・・・・  匠はバスの中では寝ようと考えていた。  そうすれば生徒とあまり関わらなくてすむからだ。  しかし匠の思惑通りとは行かなかった。  これから林間学校というわくわくする行事に胸を躍らせている生徒に四方を固められて質問攻めになっていた。 「はいはーい、松雪先生って、どうして先生になったんですか?」  遅刻ギリギリに来たにもかかわらず少しも反省の色を見せない莉子。 「なりたかったからだ」  匠は終始腕を組んで目を瞑っている。 「きっかけは何だったんですか?」  今度は穂高が聞いてきた。 「祖母が教師だった」 「じゃあ小さい頃からの夢、ってことですか?」  今度は来夢。 「ああ」 「すげー。小さい頃からの夢を叶えるってかっこいい」  次は努。 「別に」 「でも本当にすごいですよ。憧れていたものになるって素晴らしいことです」  次は心春。 「別に」  匠は無愛想につぶやくように答えているにもかかわらず全員は楽しげに質問している。  しかし匠も悪い気はしなかった。  それどころかどこかふわふわするような気持ちになっていた。  (俺・・・・・・何なんだ・・・・・・)  匠は自分の気持ちがわからなかった。
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