林間学校①

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 バスは1時間ほど走って目的地に着いた。  待ちに待った林間学校で生徒たちはうれしそうにバスを降りる。  匠はその中で無表情で降りてくる。 「はーい。2組のみんなこっちに来て!」  紗椰が手を振りながら呼びかける。  まるでバスガイドのようだが生徒にはその方が受けがよかった。  (きついな・・・・・・)  匠はすでに心身が疲れていた。 「それじゃあ、みんな部屋に荷物を置いて外に出てきて」 「「「はい」」」  ぞろぞろと宿舎に入っていく。 「私たちも荷物を置いてきますか」  紗椰が匠を誘った。 「そうですね」  匠はいつも通りぶっきらぼうに返した。  にもかかわらず(と言うよりも慣れたのだろうか)紗椰は気にした様子もなく宿舎に歩き出した。  匠もなるべく距離を置いてから歩き出すと、ふとひとりの眼鏡をかけた男子生徒が目にとまった。  周りには誰もいないのに1人だけ残っている。  匠はその生徒の元へ行った。 「近衛(このえ)、どうした?」  やはり抑揚に乏しい。  近衛 仁志(ひとし)。1年2組の生徒だ。  休み時間も読書をしているようなおとなしい生徒。 「えっ、いや、その、大丈夫です」  匠におびえてしまったのかどうかは、わからないが、早足で宿舎に向かった。  なぜ1人でいたのか考えていたがそれ以上に気になることが匠にはあった。  (あれ・・・・・・俺、今何も考えずに行動した・・・・・・)  普段なら動くかどうか迷ったはずだ。だがさっきは、  (・・・・・・)  匠は自分の胸に手を置きながら自分自身に聞いていた。
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