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「心配をおかけしました」
匠に悪気はない。だがその言い方がすべてを拒んでいる雰囲気をまとっている。
紗椰は自分が何かしてしまったのかと思った。
「あ、あはははは。そうですよね。担任ってやっぱり大変ですよね。私はまだ教員2年目なのでわからないですがきっと大変なんですね」
何が「そう」なのかはわからないが、紗椰は慌てて言った。
この高校のほとんどの教師が匠のことを知っている。
それは有名人という意味ではなく、匠の過去を、匠の状況を知っていると言うことだ。
だからほとんどの教師が匠を気にかけて行動する。
だが、紗椰にはそんなそぶりはない。普通に接している。
(もしかしたらこっちの方が気が楽かもな・・・・・・)
匠は自分が落ち着いているのを感じた。
その様子が紗椰にもわかったのだろう。
「よし。じゃあ、松雪先生。教室に行きましょうか」
と明るく言って歩き始めた。
そのときに匠の隣の机の上にあったプリントをばらまけた。
「あわわわわ。ど、どうしよう」
とすぐにプリントを回収する紗椰。
しかし匠は動けなかった。
拾おうとはした、だが体が動けなかった。
自分の行動が本当に合っているのか自信がなかった。
もしも拾うという行動が紗椰にとって邪魔だったらまた自分はいじめられるのか。
拾おうとして余計にややこしくしてしまったらどうしよう。
そんな思いに駆られて匠はただその場に立ち尽くしてしまった。
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