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1.
『全て白紙に戻す』
あの仮面舞踏会の夜、霄嘉は父である国王から次期当主の座を剥奪された。
今思えば、我ながら強引な策に出たものだと思う。
隣国の見目麗しい王子に惚れたが故に、彼の性別を偽らせ女装をさせて妃として娶ろうと考えたのだ。
仮面舞踏会はいわゆる婚約パーティーで、最後に仮面を外してお披露目と言う流れを計画していた。
しかし結局、手に入れたかった王子は会場に集まった大衆の前で真実を打ち明け、パーティーを台無しにした非礼を詫びた上で『貴方の物にはなりません』と宣言をし皆を味方につけた。
当然、霄嘉に耳を傾ける者などいない。
悪いのは、全て自分。
そんな不甲斐ない第二王子を目の当たりにした国王は冒頭のように告げ、訳あって数年振りに姿を現した第一王子に次期当主の座を継承した。
霄嘉は自身の異母兄にあたる楸とは初対面だったが、とてもそんなふうには感じられなかった。
一目見て、分かった。
国王が誰よりも愛した前妻の子供だと。
『この女性は誰ですか?父上』
少し前に、彼の書斎に置かれた小さな肖像画を見つけた事があった。
『かつて愛した……最愛の人だ』
『母上ではないのですか?』
『彼女に出会う前に出会った女性だ……今はもう、空にいる』
大切な宝物に触れるかのように、その肖像画を指先で撫でる。
『……空に?』
『あの綺麗な星達と一緒に、見守ってくれている』
額の中で微笑む女性は、長いまつ毛から覗く琥珀色の瞳が印象的だった。
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