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『母上は知っているのですか……?』
『勿論だ。この肖像画の事も……』
当時は、その女性との間に子供がいることは話されなかったけれど。
容姿がよく似ていたから、確信した。
そして継承式は滞りなく行われ、楸は正式に次期当主としての座に腰を据えたのだが。
「はぁ……」
それからと言うもの、霄嘉は非常に退屈だった。
これまで自分の権力を振りかざして興味のない事は尽く放棄し戦いに明け暮れていたのに、今は楸の雑務を半分任せられている。
物分かりは良いので淡々とこなすけれど、執務室に篭る日々が長くなる程に戦場に出たい気持ちが強くなる。
身体が鈍って仕方がない。
息つく間もないくらい剣を思い切り振り回したい。
生死の狭間で得る格別な緊張と底知れない興奮に酔いしれたい。
「ああ……もう」
心が、掌さえ疼いて。
側に立てかけていた剣の柄に手を伸ばした。
その時。
「……え」
ノックの後に入室してきた人物を見て、霄嘉の挙動は停止する。
いつもなら書類を持ってくる人間は父や楸の側近ばかりなのに、この日は違ったのだ。
相手は目が合うと笑みを深め、その唇は確かな音を紡いだ。
「やっと役目を果たす気になったか」
声も態度も容姿も、死別したはずの親友に瓜二つ。
幻かと思った。
夢かと疑った。
でも目の前にいるのは、紛れもなく蘇芳本人で。
「す、おう!生きていたのかい……っ」
椅子をひっくり返す勢いで立ち上がった霄嘉は、慌てふためきながらも相手に駆け寄り両腕を強く掴んだ。
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