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本当に、存在している。
疑心が晴れて安堵していると、痛がるように顔を顰めている蘇芳に気づいた。
「怪我しているのか……っ」
慌てて袖をまくるものの、無傷で。
ただ、昔よりだいぶ筋肉が落ちていて、細く白い腕をしていた。
「大丈夫だ。目に見える傷は癒えている……ただ、時々痛むだけ」
「あの時の、だね……」
死別したと思われたあの戦場で負った傷のことを、言っているのだろう。
当時は酷く凄惨な戦いだった。
負け知らずと謳う自分達ですら、中断し撤退したくらいだ。
「……よく、帰ってきてくれた……っ」
霄嘉は思わず蘇芳を抱きしめる。
だってあの時は、一緒に帰ってくることは叶わなかった。
こちらに背を向けた蘇芳は、先に行けと言って盾になった。
約束を破るような男ではないと分かっていても、怖かった。
ずっと待ち続けて2年、こうしてやっと再会したのだ。
「……戻るって言っただろ?」
「そうだった……お帰り。蘇芳」
散々流れていた、蘇芳が殉死したと言う噂話。
やっぱり噂でしかなかった。
ずっと生きていると信じていて良かった。
「ほら、これ」
筒にするようにして丸められた書類が手渡され、霄嘉は受け取ると席へと戻る。
すっかり湾曲した書類を開いて中身を確認しながら、思い出したように問いかけた。
「何で今まで……顔を見せなかったんだい」
ずっと待っていたのに、と。
「お前が俺の面談依頼を断ったんだろ?面倒臭いとかで蹴ったと聞いたがな」
「は?……あれは!お前だと分かっていたなら!」
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