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始まり
それは休日の昼下がり。
二階建てアパートの一室に、和室のリビングに不似合いな豪華なテーブルと椅子に座り、真っ黒なドレスを身に纏った美少女が、優雅にお茶を飲んでいる。
そんな彼女の傍で、身長180cmはあるであろう均整の取れたスタイルの美しい男性が、執事の姿で美少女にお茶のお代わりを入れていた。
そこへ、慌てた顔をしたこの部屋の家主、菅原孝明が寝室から飛び込んで来た。
「あり得ない……。夢……だ、夢に決まっている。落ち着け……。うん……、まずはトイレに行って落ち着こう」
リビングでお茶を飲む美少女と、執事姿の男には全く気付かず走り去る孝明を、黒ずくめの二人は黙って見送った。
「全く、騒がしい男だ……。せっかくの繭花様のお茶に埃が入るではないですか……」
執事姿の男が綺麗な顔を不快そうに歪めて呟き、繭花と呼んでいる美しい少女にお茶のお代わりを煎れる。
「このお茶はいかがですか? この家には粗末なお茶しか揃っておりませんでしたので、急いで買いに出たのですが……」
繭花と呼ばれている美しい少女は、顔色も変えずに黙ってお茶を飲んでいる。
そんな少女を見て
「良かった、お気に召したようですね」
執事姿の男が微笑むと、繭花と呼ばれている美しい少女は顔色を変えずに男を見上げた。
その時、孝明がトイレから戻り、リビングの二人に気付いて驚いた顔をすると、何度か自分の目を擦り、怖々と2人に近付く。
「あの~、どちら様ですか?」
孝明が声を掛けると、執事姿の男は微笑み
「おや、お戻りですか? では、寝起きのモーニングティーなどいかがですか?」
そう言うと、優雅な手つきでお茶を淹れて孝明に差し出した。
孝明は男の所作の優雅さに、思わず不審者である事を忘れて促されるまま自分の座卓に座り、美しい男の容姿にピッタリな美しい手でお茶を差し出されて
「はぁ、どうも……」
と言ってお茶を受け取る。
すると執事姿の男は
「いくらお若いからと言って、お酒の飲みすぎはいけませんね。レモンを入れておきましたよ」
そう言うと、にっこりと微笑んだ。
同じ男から見ても美しい男の微笑みに
「はぁ……」
と答えながらお茶を口にして、その美味しさに思わず笑みが零れた。
お茶を飲んでいると、自分の対角線上に居る美少女と目が合い、思わず軽く会釈して一緒に寛いでしまう。
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