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リビングに注がれる温かな日差しと、香りの良い美味しい紅茶。
なんとも優雅な時間にしばらく穏やかに寛いでいたが、ふと対角線上に居る美少女が、和室に相応しくない洋風のお城にありそうな豪華なテーブルと椅子でお茶を飲んでいる姿が目に入り、ハッと我に返る。
「あ! そうだった。あんた達、一体何者なんだよ! 俺の隣で寝てた女の仲間か?」
孝明が慌てて立ち上がり叫ぶと
「心外ですね……。彼女は私共が此処に来た時には、既にあなたの隣で寝ていましたけど?」
無表情で執事姿の男に言われ、孝明は顔面蒼白になると
「間違いだ! これはきっと、何かの間違いだ!」
そう言って頭を抱えた。
そんな孝明を冷静な目で見つめ
「ありますよね……、若さゆえの過ちというやつ。……はて? よく考えたら、あなたは若い人に入るのでしょか?」
真顔で呟く執事姿の男に
「あのな~! 一体、あんた達は何者なんだよ。それにこのお茶に茶器。どうしたんだよ」
と叫んだ。
しかし執事姿の男は、表情を変える事無く
「ああ……。繭花様がお茶を飲みたいとおっしゃったのですが、此処にはまともなお茶も茶器もございませんでしたので、急いで購入させて頂きました」
そう言うと、折り目正しくお辞儀をした。
「購入させて頂きました……って、そのお金はもちろんあんたが出したんだよな」
孝明が怒りながら叫ぶと、執事姿の男は綺麗な笑顔を浮かべて
「まさか」
と答えたのだ。
孝明は嫌な予感がして、慌てて自分の財布の中身を見ると
「無い! 俺の全財産が……。給料日までまだ一週間はあるんだぞ! どうしてくれるんだよ!」
空っぽの財布を見るなりそう叫び、怒りで力任せに座卓を叩いた。
すると繭花様と呼ばれていた美少女が、その音に驚いてお茶を飲む手を止めてしまう。
「いけませんね……。そんな手荒な態度をされますと、繭花様が驚かれてしまうではないですか」
執事姿の男が無表情のまま呟くと
「あのな! 大体、目が覚めたら隣に女は寝てるし、あんた達は人の家のリビングで寛いでるし……。その上、俺の全財産が……。冷静に対応しろって方が無理だろ!」
怒りに身体を震わせて叫ぶ孝明に、男は深い溜息を吐くと
「これだから人間は嫌いだ。ちょっとした事に、やたらと文句を言う」
感情の無い表情でぽつりとそう呟いた。
その表情は、美しい容姿が故に凍り付きそうな程に冷たい。
しかし、孝明にはその言葉が届いておらず
「あのな!」
と、執事姿の男に凄んだ瞬間
「何か!」
と物凄い形相で睨む執事姿の男に生命の危機を感じ、孝明は慌てて座卓に正座をしてお茶をすすり始めた。
すると繭花と呼ばれている美しい少女は、心配そうに執事姿の男のシャツの袖を掴んだ。
男はそれに気付くと、フっと優しく繭花と呼ばれた美少女に微笑み
「大丈夫ですよ。私が人間ごときを相手に、手荒な真似をするとでも?」
そうに尋ねた。
少女は男の言葉に小さく首を横に振ると、安心したのか再びお茶を飲み始めた。
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