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しかし、幾ら記憶を辿っても、思い出せるのは2軒目の居酒屋までだった。
まさか三十歳を超えて、ヤケ酒する日が来るなんて思わなかった。
記憶を無くす程、深酒をしたのは……何時ぶりだっただろう。
そんな事を考えていると、再び泣いている彼女を思い出して胸が痛む。
ハッとして目を開けると、軽蔑の眼差しを向ける3人が目に入る。
「待て! 絶対に思い出す! だからお前も、もう泣くな!」
慌てふためく孝明を見て、泣き真似していた見知らぬ女は泣き真似を止めて呆れた視線を向けると
「本当に覚えてないの? あんた夕べ、酔っ払ってゴミ捨て場で寝てたのよ。私が声を掛けたら、あんた……私の顔をみるなり吐いたのよ! しかも、あんたをこの家に運んでる時、私は頭からあんたの吐いた物を浴びたのよ!」
身振り手振りを付けて、見知らぬ女はそう叫んだ。
「え?」
孝明が見知らぬ女の言葉を聞いて固まると
「その上、やれ気持ち悪いから背中さすれだとか、水よこせだとかさ……」
そう続けて話す女に、孝明は安心した顔をすると
「なんだ、そんな事か……。俺はてっきり……」
と言い掛けて口を噤んだ。
「てっきり?」
孝明の言葉の揚げ足を片桐が取ると
「や~ら~し~い。何を想像してたんですか?」
と、見知らぬ女が孝明をからかい出した。
孝明には2人の言葉が耳に入ってはおらず、何も無かった事に胸を撫で下ろすと
「そうだよな……、俺にだって選ぶ権利があるよな~」
そう呟いて、見知らぬ女に得意気に言い放った。
「なんですって!」
孝明の失礼な態度に女が怒ると
「だから、もう少し本当の事を話すのは止めた方が良いって言ったのですよ」
と片桐は呟き、溜め息を吐く。
「全く……。あんまり落ち込んでいるから真実を話したのに、可愛くないよね」
見知らぬ女が孝明に怒りながら言うと
「男が可愛いって言われても、嬉しくないね」
そう言って、あっけらかんと笑っている。
「本当に可愛く無い!」
怒って叫ぶ見知らぬ女が孝明の頬を掴み、左右に引っ張るのを振り解き
「で、あんた達が此処に居る理由って何なんだ? 俺をどうするつもりだ?」
片桐と繭花を睨み孝明が叫んだ。
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