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そんな孝明を見ても、片桐は表情を変えずに見知らぬ女の顔を見て微笑むと
「まぁ……そんなに慌てなくても。そちらのお嬢様もお茶を如何ですか?」
そう言って、優雅にお茶を見知らぬ女に差し出した。
見知らぬ女はお茶を差し出され、一瞬驚いた顔をすると
「はぁ……、ありがとうございます」
と答えてお茶を受け取り、座卓に座ってお茶を飲み出した。
孝明はマイペースな片桐に溜め息を吐くと、自分の目の前でのんびりとお茶を飲む見知らぬ女に視線を移すと
「で、あんたの名前は?」
と質問した。
すると呑気にお茶を飲んでいた見知らぬ女は
「え? 私? ……そうね、名無しのななこって事にしておいて。」
そう言って微笑んだ。
「あのな!」
孝明の質問に答える気の無い3人にイライラして叫ぶと
「まぁ、良いじゃないですか。縁があってこうして出会えたのですから。短い時間だとしても、仲良くしましょうよ」
片桐は我関せずという感じで、ななこと名乗った女を怒鳴る孝明を制した。
孝明は自分の髪の毛を両手でぐちゃぐちゃにすると
「なぁ……。そう言って、話を逸らしていないか? 俺は死んだんだろ? だったら、さっさと連れて行けよ!」
そう叫ぶ孝明に、ななこが驚いた顔をすると
「死んでるって……あんたが? もしかしてあんた、幽霊?」
と、幽霊のポーズをして孝明を見た。
「そんなわけないだろうが!」
思わず叫んだ孝明に
「そうよね、幽霊があんなに吐かないわよね」
ななこが笑いながら答えると
「だから、その話はもう止めろ!」
怒りが収まらない孝明に、ななこは一瞬、悲しそうな笑みを浮かべた後、明るい笑顔を作り
「はいはい。でもさ……もし死んだとしたら、死ぬ前に会いたかった人とか居ないの?」
まるで救いを求めるかのような、真剣な瞳で孝明を見つめて呟いた。
そんな表情を見て、孝明は目の前にいる見知らぬ女「ななこ」を見る度、あの日の彼女の泣き顔を思い出していた。
しかし、その姿を振り払うように
「……居ないよ」
と、ぶっきらぼうに答える孝明に
「ふぅ~ん」
ななこは明らかに『不満』と顔に書いて、孝明の顔を見上げた。
「何だよ、その奥歯に物が挟まったような言い方」
今までハッキリ物を言ってきたななこが、突然言葉を濁らせたので気になった孝明に
「別に……」
とだけ呟き俯いてから、突然笑顔を浮かべると
「じゃあさ、彼女が居ないんだったらしばらく私を此処に置いてよ」
と言い出したのだ。
「………………はぁ!」
孝明が言葉の意味を理解するのに時間が掛かり、思わずななこの顔を見つめて叫ぶと
「良いじゃん。誤解されて困る相手もいないんでしょ?」
ななこは笑顔でそう言うと、片桐に
「ねぇ~!」
っと同意を求めた。
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