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ななこの想い
片桐が小さく微笑み頷くと
「そういう問題じゃないだろうが! お前だって、家族が居るだろう? 家の人が心配するだろうし、第一、そういうお前には恋人が居ないのかよ」
と、何を考えているのかさっぱ分からない『ななこ』にそう叫んだ。
するとななこは悲しそうに微笑み
「恋人……か。心配してくれるかな?」
そう呟いて、孝明の顔を見つめた。
その顔が、似ても似つかないのに『あの日別れた彼女』を彷彿とさせた。
孝明は一瞬戸惑った顔をしたが、いくら好みのタイプでは無いと言え、男女が同じ部屋で暮らすなんてよろしくないと考えた。
だから敢えて
「当たり前だろう! しかも、見ず知らずの男と一緒なんて……お前の恋人にでもバレてみろ! 大変な事になるぞ。お前の恋人の立場になったとしたら、俺はそんな事、絶対に許せないね」
そう答えたのだ。
こう言えば、考えを改めて帰宅するだろうと思って発した言葉だった。
するとななこは俯き
「………許せないって、どうするの?」
ポツリと呟いた。
「え?」
予想外の反応に驚いてななこを見ると、ななこはキッと孝明を睨み付け
「別れるわけ? 男って良いよね、簡単で」
そう叫んだのだ。
孝明はななこの為を思って言ったのに、思わぬ態度に腹を立てた孝明が
「あのな!」
と怒ると
「それで別れたら、すぐに他の女の所に行っちゃたりするんでしょ?」
そう言って皮肉な笑みを浮かべた。
「それは、人によりけりだろう?」
「どうだか……」
「お前さ……さっきからずっと、やけに俺につっかかるよな?」
言い争っていると、呆れた顔で孝明がななこに呟いた。すると
「当然でしょう? あんな事をしておいて。」
と、片桐が間髪入れずにツッコミを入れて来た。
「あ……片桐さん~、少し黙ってて下さい」
孝明はそんな片桐に笑顔で言うと、キッとななこを睨み
「とにかく、お前は家に帰れ!」
そう言って、ななこに玄関を指さした。
しかし、ななこは頑なな態度を崩さない。
「嫌!」
「嫌って……」
「別に彼女が居ないなら良いじゃない! それともなぁに? 私が居たら誰かが傷付くわけ? 彼女居ないとか言って、本当は居るんじゃないの?」
わざと揶揄うように話すななこに
「………わかった、もう何も言わない。勝手にしろ!」
そう叫ぶと、孝明はななこに背中を向けた。
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