そうぞう力

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「でさあ、話変わるけど、このはと井口って、付き合ってたりする?」  急に話題の中心に出され、咳き込みそうになった。  友人の瞳は夏の太陽に負けないほど輝いていた。その瞳を見て、「ああ、この子は将来近所の噂に耳を立てることが生きがいのおばさんになるんだろうな」と思わずにはいられなかった。そういう人って、だいたい嫌われる。でも、そのことに気づかずに図太く生きていけるんだろうな。 「今だってさあ、ちらちらこっち見て、このはに話しかけるタイミングうかがってる感じじゃない?」  教卓を囲む男子の集団に目をやると、確かに、真ん中にいる井口と目が合った。にっこり微笑まれたから、ぎこちなく微笑み返す。「わたしたち、邪魔しちゃってる?」友人の、気づかうふりをした興味本位だけの言葉に首を振った。 「そんなことないよ。それに、わたしと井口、付き合ってないし」  否定の言葉を言ったところで、「えー、でも、いつも楽しそうに話してるじゃん。井口ってこのはのこと好きなんじゃない?」と興味を煽るだけだった。  嫌だな。面倒くさい。どうしていちいちそういうことを、友だちに報告しないといけないんだろう。この子たちはきっと、学校に蔓延る噂話の全てを知っておきたいし、できれば最初に知りたいんだろうな。  面倒だと思うなら、「井口がわたしのこと好きでも、わたしは井口のこと好きじゃない。だって、わたしにはもう大好きな人がいるから」と言えばいい。けど言わない。言えない。本当のことを言って井口をがっかりさせるのも、友だちから興味を失われるのも、怖かった。  結局、「そんなことないよ」とはぐらかし続けるだけで昼休みは終わった。
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