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第一話 電車での出会い
みなさま、ごきげんよう、お久しぶり、山岸一馬です。
今、俺はひじょーに焦っております。
何故かというと、家(うち)の母ちゃんが勝手に予備校の受付けをしてきました。そして俺はゴールデンウィーク返上で通う事となってしまったのです。とほほ、もう、夕方の図書館は行くことはできないでしょう、はあ。
別に、図書委員や図書部の女の子が目的ではありません。あそこは静かで寝るのにも最適で、夏は涼しいし、冬はあったかいし、電気いらないし、それはまあおいといて第二の自分の部屋みたいに使わせてもらっていた。
雄一も同じだと聞き、これはうちの母ちゃんの陰謀だというと、意外な言葉。あきらめていた進学が出来そうなのは俺んちの母ちゃんの御蔭みたいなことを言われた。とにかく俺と雄一は、今までの勉強分を取り返すべく、予備校に通うこととなった。
まあ、とりわけ頭もいいわけじゃないけど、まあ、まあのところに入れると思う、自信?んーある様でないようで、でもやるからには頑張らなきゃ。一応家の学校は公立でも進学校として有名なわけで、センタほどいい学校というわけじゃないし、もしもダメなんてことは、今はまだ考えてなくて、とにかく先生には、点数を学期末のテストで上げるようにとの通達で、あの、校長の事件から数か月後、俺はそこへ通い始めた。
そして季節は夏、俺たちにとって大変な事件に関与していくことになってしまうきっかけの事件にまきこまれることになるんだ。
やっといろんなことにけりが付き始めた季節だった。
元校長の事件。そして、小林さんの店の事件。
絡まった糸がほぐれるとすべてが明らかになりホッとしたのもつかの間、また新たな事件が生まれていた。
未来なんてわからないから楽しみなんだといいたいところだが、ハッピーエンドになるかどうかなんてその時はわかってなくて、ただ、つらい思いをする仲間を助けたい、それだけでみんなが動いたんだと思う。
それでは、
それでは、ここからは私、遠藤はるみが引き受けます。
おい。
何よ、この話は私が主人公でしょ、エッヘン。
まあいいか、そんじゃよろしく。
“絶望の淵にある淑女に助けを求められたら、紳士たるもの、危険を顧みるべきではない。”
シャーロックが言った言葉には、女性に対してすごく優しい言葉が多いのよね。まあ中には、つんけんして、門前払い、なんていう人もいたかもしれないけど、それは彼なりのシャイな物言いに隠れている可愛い一面だと私は思う。
でも今回ばかりは、私の周りにいる男性たちには感謝の念しかない。仲間だといってくれる一馬だけど、私なんか何にもできないのにありがたかった。雄一やセンタ、淳たちみんなが仲間だと言ってくれた高校三年の夏、一度きりの私の時間。そして高校最後の夏は、遊びに行くわけでもなければ、エンジョイしたわけでもない。ただ、私にとって最悪で最高の思い出となった。それだけだ。
さて、これからのお話は夏休み前、私の周りで、奇妙なことが起こり始めたの。
事の起こりは六月中旬、その日私はいつものように図書室に向かった。
三年、文化部の活動は、ほとんどが一学期で終了、引退である。
図書部に入り、図書委員も兼任してきた三年間、それももうすぐ終わる、そしてこの半そでの制服とももう少しでおさらばだ。
職員室に行き、図書室のかぎを開ける、代々部長がやってきた仕事で、ホームルームが終わると、真っ先に開けに行く、掃除や、何かが入ったときは部員に頼むけど、ほとんどが私の仕事だった。
肩にドスンと重いものがのっかった。
「まだー」
耳元にパサリとかかる髪の毛。
「うるさいわね、今来たところ!」
「腹減った」
もう、といいながら、肩に乗った首を払う。鬱陶しい、髪の毛切ってこいと言うと、そう?なんて前髪を触る一馬。
鍵を差し込みあけると、ハ~涼しいと、クーラーの真下、いつもの席へ陣取るとカバンの中から小さな紙パックのジュースを取り出した。
ほら、ッとポンと投げたものをキャッチ。
私の好きなレモンティー、ぬる。
「飲食禁止―」
「準備室―」
紙パックにストローをさしながら近寄ってくる。なんかねえの?
何にもない、あるはずないジャン、一応女子なんです。
「エー」
「エーじゃない」
シャーねーなといいながら、新聞の束をもってその席に座る。
もうこれも見納めね。
「はるみ先輩」
びっくりした、後輩の美和ちゃん、何、見とれてるんですかと言われ、何も見てないといって、あとよろしくと言って図書室を出ようとした。
振り返り、あいつのところへ。
「予備校は?」
「行く」
「時間はいいの?」
「うん」
もう、本当にいいのかよ!それ以上の返事がないから出て行こうとした。
「夫婦みたいですね」
「あんなの亭主にしたら大変よ、じゃね」
目の前の扉がバンと開いた。びっくりした目の前に雄一。
「いたー、一馬!」
パカンと殴りつけた。
「いってーな」
「シャラップ、うっせーよ」
「誰もいねえだろう」
と言って中に入っていく。
ズックでも投げつけたろうか。
まあまあと後から来た後輩に言われた。
まったく、何よ、図書室はアンタラのたまり場じゃないっていうの!
後輩が来たから私は帰ると踵を切った。
後ろからは雄一の帰れ、帰れの声、ふんだ。
引退したら、もうここに残ることはない。ただ勉強しに来るかもしれないけど。この半そでの制服も夏休みが終われば一か月で終わりか・・・なんて、思い出を思い返しながら駅へと向かった。
帰りの駅はものすごい混んでいて、改札では、なんか言ってるけど、学生の声でかき消されて、あーなんかあったんだ、位にしか思わなかった。
ホームも人でごった返している。
電車は来た、ドアが開いた、すぐに下りるからできるだけドアの側にいたいのに、押されるー、ドアそばのポールにつかまるのがやっと。苦しいー、夏服になったとはいえ、人の熱気、体から熱で熱くて、クーラーなんて、まだ入っていないんじゃないかと思う、まだ長袖の人たちもいるくらいだし。もうどうなってんのよ!なんて突っ込みたくなる。
ん?
ふっと自分の周りだけ空間ができたような気がした。
「混んでるね」
その声に振り返った。日向先輩。
「お久しぶりです」
わー、大人っぽい。髪伸ばしたんだ、似合ってる、イケメンだから何しても似合うけど、七三に分けた髪は、雑誌とかの表紙になりそう。
「今帰り?」
はい。
「へー日向、彼女?」
「そうだといいんだけどね、違う、高校の後輩、覚えてない?図書室のマドンナ」
マドンナー?古いですよーなんて。このまま彼女候補したいなーなんて思っちゃダメかな・・・
「あー、図書部の部長か、思い出した。どうも、日向の先輩の後藤です」
「遠藤です」
よろしくーなんて、顔はいいけど、ちょっとチャラそう。頭一つ分日向先輩より背の高い先輩が腰を曲げて覗き込んだ。
俺らが三年の時一年か、はエーよな。三年?受験か、去年のお前たちかよなんて話してる。
大学は楽しいですか?
楽しいよ。ねえどこ受けるのなんて、おんなじ大学じゃすごい頭いいんだろうな。
「はるみちゃん次だろ、こっちおいでよ」
「はるみちゃんかいいねー」
「何がいいんだよ」
「いいじゃねえかよ」
又な、さよならと先輩たちと別れた。
大学生か―半年ですごい大人っぽいなー。
そういやあの事件の時私だけ先輩とは一度しか合えなかったんだよな。ふんだ一馬のやろー、憶えておけよ。
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