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 地上に落ちた星を探した。 ∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽  切り立った崖に座り、眼下に広がる闇の世界を眺めながら、その者はエルペ・ココェと話していた。  その者の後ろには、その者の何倍もあろうかという大きさの()が鎮座している。崖が崩れないように、置く場所を配慮しておいたから大丈夫だろう、とその者は星を振り返った。 「この星に手紙があって良かった」 「▽」 「久しぶりの手紙だったから」 「〇」 「これで、また約束に近づいた」 「――」  その者は継ぎ接ぎのポケットに手紙を差し込むと、空に近いその場所から、天を仰いだ。 「もう私だけの約束ではない。あの少女も想ってくれた」 「〇」 「なあ、エルペ・ココェ。私は……約束を果たせるだろうか?」  そうしたら、自分が何者か、分かるだろうか、と。  ひし形の金属板は、悩んでいるのか、記号を選んでいるのか、しばらくの間反応を見せなかったが、やがて、いつものようにすっ、と記号を浮かべた。 「……!そうか。エルペ・ココェ……」  表情の起伏の少ないその者の眉が、僅かに弧を描いたように見えた。  すぐに普段の調子に戻ったその者は、エルペ・ココェを仕舞い、崖から離れると、地上に落ちた星を近くの集落に届けるべくその箱を持ち上げる。  事も無さげに軽々と肩に乗せると、来た道を引き返していく。  背には、その者の瞳のような丸い月が光り、点々と空に針で穴を空けたみたいに星が散らばる。  そのどちらにも目を向けず、星を運ぶその者は、今日も、昨日も、明日も、地上に落ちる星々を探す。  いつか約束を、果たせる時まで。
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