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 地面から垂直に延びる二メートルほどの硬質な金属棒の頂点に直径一メートルはある円盤が付いているモニュメントを中心に、その集落は広がっていた。  モニュメントは一つの集落に必ず一つあり、みな一様に〈ヤクジュ〉と呼ばれている。形こそ違えど、〈ヤクジュ〉に何かの文字が刻まれている事と、〈ココ〉の住む場所に立っている事だけは共通していた。  そして、どの〈ヤクジュ〉にも、「→☆←」の模様が(はし)っている。 「久しぶりに他の〈ココ〉に会う」 「〇」 「えぇ、えぇ。〈星の銀貨商〉様を迎えたのは久しぶりでございます。それにあなた様は、お見受けしたところ、例の……」  その者から地上に落ちた星を受け取った集落の代表者は、おずおずと、その者を見上げた。平均的な人間の――〈ココ〉の身長を大きく上回るその者と話す時は、たいていの〈ココ〉がこうしてその者を見上げる。  その者をはじめて見た〈ココ〉は体格の差に委縮するが、すぐに態度を柔らかくする。その者自身はとして認識しているが、その者の揺蕩う星の光のような瞳に、〈ココ〉たちはを、覚えているのだろう。 「例のというと、変り者と呼ばれている事か?」 「▽」 「え、えぇ。まぁ。私どもとしては、きちんとした対価を払いたいのですが……集落には地上に落ちた星を見た事がない者もいますし」 「そうか」 「×」  眉をハの字に曲げた代表者は、物陰に隠れてその者を見ている子どもたちに視線を移しながら言いにくそうに呟いた。代表者は本心から申し出ているようだった。その者はばつが悪そうに襟足を掻き、すまない、とそれを断る。 「私は……普通の〈ココ〉と違って、死なないんだ。それに、星を拾うのにこの身体以外に要るものは、エルペ・ココェだけ。私には、エルペ・ココェと……それだけで十分だ」 「――〇」  絞り出すようなその者の言葉に、代表者は目を見開いていたが、集落の他の〈ココ〉の反応を気にして、それ以上表情を変える事はなかった。 「……左様ですか。すみません、出過ぎた事を申しました。〈星の銀貨商〉様、どうかこの先もご無事で。〈ヤクジュ〉の加護があらん事を」 「ありがとう」 「▽」  代表者は両手を合わせ、祈るような姿勢でその者と――エルペ・ココェに言葉を送った。  その者も、同じような仕草を軽く取って、足早に代表者の元を離れる。  夜だった。  その者が箱を拾ってから一日分月が周り、天蓋(てんがい)がほんの僅かに表情を変えた。  今日もどこかに、星が落ちている。  その者は、星を求めて旅を続ける。  金属板と共に旅をする、対価を求めないその〈星の銀貨商〉は、〈ソーム〉と呼ばれていた。  
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