〇 × 〇 ▽

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〇 × 〇 ▽

 地上に落ちた星の話を聞いた。 ∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽  見渡す限りの夜の荒野に、灰色の線が伸びている。その線を辿ると、西の森や東の遺跡に行くことが出来て、〈星の銀貨商〉のような旅人には道しるべのような役割を成していた。  エルペ・ココェを頼りに、灰色の線の上をぺたぺたと歩くその者は、東から強く吹いた風にあおられ、フードを手で押さえた。 「次の星にはあるといいな」 「〇」 「もうすぐなのか」 「×」 「なるほど。ならば、まだ少し歩かねばな」  立ち止まり、目を細めて地平線に視線を投げるその者はこの先の道行きを思い、エルペ・ココェを憂えげに撫でる。それに応えるように、エルペ・ココェは「▽」と表示していた。その者は苦笑で返し、エルペ・ココェを仕舞う。  地上に落ちた星は、この荒野のどこかにある。  死ぬことのない〈ココ〉、変り者の〈星の銀貨商〉――〈ソーム〉と呼ばれるその者に、エルペ・ココェ以外の持ち物はほとんどない。  移動に時間がかかるため、他の〈星の銀貨商〉に先を越される事もしばしばあった。その者は、他の銀貨商に遅れをとらないようにと、休みなく進み続けている。  一枚でも多くの〈続きの手紙〉を、集めなければならないのだから。  灰色の線の上をしばらく歩いていると、その者の視界の先、その遠くで砂埃が巻き上がっているのが見えた。距離の大きさから数秒の間は止まって見えていた砂埃は、次第にその者の方に近づき始め、機械音を伴うようになる。 「他の〈星の銀貨商〉か」 「〇」 「もう取られてしまったんだろうか」 「▽」  その者はコートに掛かる風と砂粒を払い、砂埃――〈星の銀貨商〉の乗る駆動四輪が通り過ぎるまで止まって待つ事にしたようだ。  その者は、出来るだけ他の〈ココ〉との干渉を断っていた。  その者の左手首に刻まれた、「→☆←」の模様は、()にあるものと同じ模様だ。  あるいは、自分もなのではないか、とその者は思っていた。自分もまた〈星の銀貨商〉であるがゆえに、〈ココ〉たちにとって「→☆←」がどんな意味を持っているか良く知っていた。  きっと、それを知られたら――。 「おーい、おい、ってば、あんた!」  ぼうっとしていると、甲高い声が砂の舞に交じって流れてきた。  
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