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驚いて顔を上げると、奥行きが長く縦が短い直方体を切り抜いて作ったみたいな錆びた鉄の駆動四輪がすぐそこまでやってきていた。
声の主は、駆動の上にうつ伏せに寝転んでいて、双眼鏡片手にその者に手を振っている。
その者が自分に気が付いたと分かると、素早い身のこなしで車内に戻り、金切り音を上げながら四輪を停止させた。
「一人か?」
「▽」
「一人だよ」
んしょ、っと。
声の主は地面に飛び降りると、首を回しながらその者に近づいてくる。
線の細い身体つきの――彼女は、その者の胸までの身長の少女だった。
茶色い飛行帽にレンズにひびが入った黒のゴーグルが着けている。ゴーグルの紐には煌びやかな宝石が一つついた指輪が通っている。ちょうど、右の目の奥に指輪が光っていて、眼光の具合が煌めいて見えた。
首元には迷彩柄のスカーフが雑に巻いてある。スカーフの隙間から飛び出した襟がアンバランスで、エルペ・ココェが見たら「▽ ▽」と反応しそうだった。
「運転中にあんな姿勢を取って大丈夫なのか」
「×」
「気持ちいいよ?外の空気!」
「そういうものなのか?」
「▽」
「そー。ねぇ、そんな事よりさ、あんた、〈ソーム〉でしょ?」
目を、瞬く星のように光らせ、その者の両手を掴んでぶんぶん振り回す少女の問いに頷いて返すと、「やっぱり!」少女は破顔した。
「私、一度あんたと会ってみたかったの。ね、ここの地上に落ちた星は私がもらっちゃったんだけどさ、良かったら一緒に近くの集落まで行かない?」
少女は、手を後ろで組んで、身体を傾けて誘う。その提案を断る理由もないその者は、地上に落ちた星に〈続きの手紙〉があるかどうかを確かめるためにも首肯した。
「ほんと!?やたっ。じゃあほら、乗って。助手席でいいからさ」
「む。少しいいか」
「なに?」
駆動四輪に乗ろうとする少女を引き留めたその者は、飛行帽からゴーグルを取り外し指輪をゴーグルから離すと、少女の右手を取ってその人差し指につけてやった。
プレアデスのような青い点々とした輝きを孕む宝石が嵌る指輪が、華奢な少女の手を飾る。
空の星が、少女の手に落ちてきたみたいだ。
「ゴーグルよりも、こっちの方がいい」
「わあ……〈ソーム〉、あんた、これ使い方知ってたの??」
月明かりに手を翳し、手をくるくると回しながら青に彩られ、ドレスアップした自分を嬉しそうに眺めている。同じ〈星の銀貨商〉の少女が見せる年相応な仕草に、その者は薄く笑みを見せた。
「知っていた、というより分かったと言った方がいいかもしれない。見覚えがあったんだ」
「ふうん。まあいっか。ありがと!早く行こ!」
その者は少女に手を引かれ、四輪に乗る。
どうやら今日の夜は、騒がしくなりそうだった。
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