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 少女と、その者と、エルペ・ココェ。  二人と一枚を載せて、駆動四輪は荒野を走る。  明かりのない地上を照らす星々の(ささや)きのような光に包まれた世界で、派手な音と砂埃を放ちながら、〈星の銀貨商〉は地上に落ちた星を運ぶ。  後部座席に、以前その者が見つけたものと同じくらいの大きさの箱がちん、と置かれている。()の大きさはまちまちで、それこそこの駆動四輪ほどの巨大な星が落ちているケースもある。  その際にも、地面や箱は無傷で、当然のように箱には「→☆←」の模様が刻まれている。  左手首を撫でる。  不安な時は、こうする癖があった。 「で、手紙?だったっけ」 「うむ。見た事あるか」 「▽」 「うーん……この星にも入ってなかったし、私は見た事ないかも」 「そうか。それならいいんだ」 「そう?」  ハンドルは左側についていて、運転する少女は窓から左手を車外に出して、右手をハンドルに沿えていた。それでいいのかと聞いたら、ずっとまっすぐだからと、欠伸が返ってきた。  コートの継ぎ接ぎで作ったポケットの中には、数枚の手紙が入っている。  送り主の名前がなく、ただ「ココへ」と宛名のみが書かれた短い手紙。  その者は、手紙を慈しむように、ポケットを上から押さえた。 「私さ、あんたが見返りを求めない理由、なんとなくわかるよ」  そりゃまあ、お金貰わないと何も交換できなくなっちゃうけどさ、と少女は四輪が放つ騒音にかき消されそうな小さな声を放った。  それはあまりに朧気(おぼろげ)で、誰かが支えないと消え去ってしまいそうなくらいに思えた。 「私、生きるために星を拾ってるわけじゃないから。小さい頃ね――あ、これでも私もう二十年以上は生きてるんだからね」  どうだ、ど胸を張った少女の身体では、だれもすんなりとその言葉を信じそうになかったが、その者は「む、そうか」と受け入れて話を促した。 「そうそう。そんで、小さい頃ね、私初めて星を拾ったの。それで、この――あんたが付けてくれた指輪を見つけてね。綺麗だな、って思った。もっと綺麗なものを見つけたくて、この仕事をしてるってワケ」 「綺麗なものか」 「〇 〇 〇」 「綺麗でしょ?これ。実はこの他にもいろいろちょろまかしてるんだ~。あ、これヒミツね」 「努力する」 「▽」  〈ヤクジュ〉や、〈ココ〉という名前。  地上に落ちる星々や、その中に入っている物品。  〈ココ〉たちが、この世界で目にする様々な記憶のものに、〈ココ〉たちの知識が辿りつくことはない。  それでも、〈ココ〉たちは魅かれるのだ。  地上に落ちる星に、空に光る星に、星の光る空の向こうに。  だから、〈星の銀貨商〉は星を拾う。  〈ココ〉たちに星を届け、自分もまた、星に近づこうとするために。  では、〈ソーム〉はどうだろう。叶えるべき約束を追う、その者は――。
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