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「あんたはどうなの?」 「どうとは」 「×」 「だから、〈星の銀貨商〉やってる理由よ。無償で、なんて、どうやって食っていくの」  それが聞きたかったのだろう、少女は自然な風を装っていたが、逸る口調を隠しきれていなかった。〈ソーム〉の噂の広まり具合に、内心苦笑するその者は、エルペ・ココェを膝の上に乗せ、(まぶた)を閉じる。 ――暗闇。  以前、幼い〈ココ〉が言っていた事を思い出す。 『めをとじるとね、おほしがきらきらするの!ほしのぎんかしょーさんも、めをとじたらいっぱいおほしがみつかるよ!』  その者の視界の裏にある虚無を、その子に言ったところでどうにもならない事は分かっていた。  それは、この少女も同じだ。  この少女に話したところでどうなるわけではない。  けれど話したくなったのは何故だろう。  ▽ 「……私は、死なない。正確に言えば、普通の〈ココ〉のように食事を必要とせず、怪我も負わない。疲労も感じない。星も、大きいものでも素手で運べる。見返りなどいらない」 「えっ、それ、ホント?」 「嘘ではない」 「うわ……でも、じゃあなんで、それこそ、〈星の銀貨商〉だったの」 「それは。私には、記憶がない。名前も、故郷も。やるべき事の記憶も。初めて星を拾った時に、手紙を見つけたんだ。その手紙には、このエルペ・ココェの作り方と――果たすべき約束が、書かれてあった」  ▽  少女は口も挟めず、ただその者の話に耳を傾けていた。  その者も、隠してきた想いを吐き出すように、一人続ける。 「私は、星に入っている手紙を集め、約束を叶えなければならない。そのために、〈星の銀貨商〉をしている。このエルペ・ココェとともに」  ▽  いつの間にか荒野を抜け、森の入り口が見えてきた。  倒木のように横たわる角ばった建造物をいくつも呑みこんだ森の奥には、ひときわ大きな〈ヤクジュ〉を持つ集落がある。  森に差し掛かったところで速度を落とした少女は、手元の地図を見ながら、様子を(うかが)うようにして言葉を添えた。 「約束って、どんな?」 「――分からない。でも、果たさねば」 「そう」  ▽  この建造物は誰が作って、いつこうなったのだろう。  その者はここを通るたびにいつも考える。  答えが出ないまま集落にいつも着いてしまうから、もう何度同じ問いを繰り返したか分からない。  それでも繰り返し響く問いに、今日も答えは出なかった。 「果たせるといいね、その約束」 「うむ。私も、そう思う。心から」 「〇」  森を行き、集落に着き、星を渡す。  その者に倣って何も貰わなかった少女は、集落に入る前に車内で地上に落ちた星からいくつか物品をちょろまかしていた。 「ヒミツだな」 「ちょっと、あんたね」  何事かとその者と少女を交互に見る〈ココ〉の代表者に少女は愛想笑いで返し、その者の手を引いてそそくさとその集落を後にした。  森を抜けるまでは駆動四輪に乗せてもらったその者は、森を抜けた先の平野に着くと少女に別れを告げる。 「また、会えるといいな」 「そうだね。あんたも、その……約束、叶えてね」 「――そうだな」 「〇」  遠ざかる駆動四輪を眺めながら、星空の下、その者は独り言つ。 「〈ココ〉へ宛てられた手紙――私は、」  ポケットに入るエルペ・ココェに、記号が浮かび上がる。  けれど、静かに瞑目(めいもく)し、暗闇に意識を落とすその者は、エルペ・ココェの表情には気が付かない。  その者にとってはそれで、良かったのかもしれない。
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