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 地上に落ちた星の話を聞いた。 ∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽  擦り切れて靴底が剥がれかけている革製の黒いブーツがペタンペタンと地面を打つ。その度に、腰に巻いた布がひらひらと踊った。これも黒い、継ぎ接ぎだらけの薄いコートの下は、脱ぎたくても脱げない、角が雄々しい甲虫の腹みたいな模様の入ったスーツを着ている。  新調したから、それだけは立派な青いフードを目深に被ったその者は、ひし形の薄い金属板を一瞥(いちべつ)すると、落胆の表情を見せた。  僅かに口元を、歪めるだけの。 「エルペ・ココェ。この星には、〈続きの手紙〉はないんだな」 「〇」 「そうか。仕方ない。拾うだけにしよう」 「× 〇」  その者は、金属板を相手に会話しているようだが、実際には記号が浮かんでくるだけのそれに声をかけているだけだ。  「エルペ・ココェ」と名前まで付けて。 「行こう。早くせねば、他の〈星の銀貨商〉に取られてしまう」 「〇 ▽」  微笑んでいるつもりのその者の細かく震える口許に、夜の影が差す。  その者とエルペ・ココェがいるのは、見晴らしのいい平原だった。  荷物らしい荷物は無く、あるのはせいぜいポケットに入れた〈星の銀貨商〉である事を示す手のひらに乗るくらいの大きさのプレートと、紙切れが数枚。  それだけの持ち物で、その者は地上に落ちた星を探す旅をしている。  金属板の、エルペ・ココェとともに。 「む。あれか。今度の星は軽そうだが」 「〇 〇」  無骨な直方体の、石かなにかで出来ているように見える巨大な建造物に(つた)植物が絡みついて大木になっている物が林立するエリアに入ってすぐに、その者は地上に落ちた星を見つけた。  いつからか、そう呼ばれるようになった、空から世界中に降り注ぐ()の中には、地上では手に入らない物がいくつも入っている。その()を拾い、〈ココ〉がいる集落に売る事を生業とする者たちを、〈星の銀貨商〉と言った。  その者は、対価を求めず拾った星を近くの集落にそのまま譲渡する変わった〈星の銀貨商〉として銀貨商の間では知名度が高い。 「よし。行こう。エルペ・ココェ」 「〇」  二メートル近い体躯のその者の四分の一くらいの大きさの立方体の星には、「→☆←」というマークが刻まれていて、割には傷一つついていない。大きさの割に軽い中身が何か、その者に興味はなかった。  中を覗いたところで、見返りを求めず全て渡してしまうのだ。  地上に落ちた星に危険物が入っていた例はこれまで一度としてなく、それを感知できるエルペ・ココェも「〇」と言っているのだから、その必要はない。 「私は、約束を果たせるだろうか?」 「――」  空を見上げると、黒い水面に無造作に宝石をちりばめたみたいな、煌びやかな世界が広がっていた。あの中のどれかが、いつか落ちてきて、エルペ・ココェと共にそれを探しに行く。  その果てにある、何かを求めて――。  その者は今日も地上に落ちた星を探し続ける。
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