遺書

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 お母さん。  覚えておられますか。  あれは…… 私が五歳の頃でしたね。  幼稚園で初めて描いた自画像を見せた時、あなたはたったひとこと、『まあ。お祖母(ばあ)さまにソックリ』 と言ったきり、後は無視しました。  あなたがその頃、急に遊びに来ては何日も泊まっていく祖母 (あなたにとっては嫌な姑です) に辟易していたのを…… 私が知らないと、思っていたのでしょうか。  あなたはその後もよく、私に気に入らないことや理解できない徴候を見つける度に、『父に似ている』 『祖母にソックリ』 と言っては、自分を納得していました。  そして、別のところでは父や祖母の悪口を言っていました。  …… もちろん、悪気はなかったのでしょう。  けれどもその度に、私はあなたから 『お前嫌い』 と言われていると思っていたのですよ。  そんなはずはない、単に言い方の問題、とおっしゃいますか?  その 『言い方』 が重要だとは、お思いになりませんか?  百歩ゆずって、仮に 『お前嫌い』 と言うつもりはなかったのだとしても、あなたは私を通して 『嫌いな人物』 を見るだけで、私自身を理解しようとはしなかった。  もっとも。  それで傷つくのは、親子ゆえの甘えなのでしょうね。 『私自身を理解してほしかった、だなんて何を甘ったれてるの』 というあなたの声が聞こえるようです…… 本当に、あなたの娘には産まれたく、ありませんでした。  五歳の頃といえば、もうひとつ、あなたは私に強烈な教えを与えてくれました。  
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