ONE STORY

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ONE STORY

 目が覚めると、僕は知らない場所にいた。 そこは、美しい花が咲き誇り、甘い香りが充満している楽園だった。  ただ、一つ違和感があるとすれば……人の気配が全くない。動物の気配もない。急な孤独感が体を包み込む。暴力に近いそれは内部までも浸食し、心臓のあたりがゾゾッと冷たく感じた。焦って誰かと連絡を取ろうとスマートフォンを探すが、見当たらない。  仕方なく前へと進む。孤独に溺れないように。だがいくら進んでも景色は変わらず、不安に襲われる。何しろ同じような花が生えているのだ。目印を見つけるのも難しい。どうしたらいいのだろうか、そもそもなぜここにいるのだろうかなどと考えているうちに花は消え、砂漠の広がる乾燥した土地を歩いていた。少し立ち止まり、後ろを向いて砂地に残った足跡を見ると結構前から歩いていたらしい。靴の中もそれに比例するかのように少し重くなっていた。砂を靴から出そうとしたとき、 「あ、あなた何やってるの?」  ……突然声がした。  目覚めてからようやく人に会えたと安心し、声がした方向を向くと、薄桃色の髪の毛に薄青色の目をした色白美人が眉を潜めてこちらを向いていた。 「別に、歩いているだけですよ?」  そう言うと、さらに怖い顔でこちらを睨んできた。どうして怒っているのか僕にはさっぱりわからなかった。返答を間違えたのだろうか。一般的な回答をしたつもりだが……。ふぅ……と息を吐いて彼女がまっすぐこちらを向いた。 「まぁいいわ。それよりあなた、怪我をしたりなにかに襲われたりしてないでしょうね?」 「してませんよ」 「それなら良かった!」  先程の険しい表情から一変して笑顔でそう言ってのける彼女。とりあえず機嫌は治ったようだ。 「私の名前は、エリ・アナよ。よろしくね!」  名前を聞こうと思っていたが先手を打たれた。仕方ない。こちらも名乗らなければ失礼に当たる。 「僕の名前はショウです」 「ショウ! あなたにぴったりだわ!」 「そ、そうですか?」 「ええ、もちろん!」  これはルールなのか。相手の名前を褒めるのは。自己紹介の場でもそんなことはなかったが、ここにはきっと存在するのだろう。慌てて彼女の名前を褒めるとやはり照れくさいのか頬をほんのり赤く染め笑っていた。
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