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息苦しい暑さに目を覚ますと、すでに太陽は晴れ晴れとした青い空に昇っていて、時間を確認すると、すでに午前八時をまわっていた。
気づくと助手席に宮下の姿が無い。
ひとりで海に行ってしまったのだろうか? トイレかもしれない。そう考えて、ふとフロントガラス前方に目を遣ると、駐車場の隅で若い男ふたりに挟まれるようにして、黄色いワンピースを着た宮下の姿があった。
男のひとりが宮下の肩に腕をまわしている。
ここから見る限りでは、宮下にそれを嫌がる素振りは見えない。
知り合いなのだろうか? 生田がそう考えていると、突然、宮下の携帯が鳴り出した。
肩にまわされた男の腕からするりと抜けて、宮下は電話に応じながら、空いているもう一方の手で、男たちに向かって小さくバイバイの仕草をしている。
それでも男たちふたりは尚もしつこく、しばらくその場で宮下の電話が終わるのを待っていたが、そのうち宮下がクルマに向かって歩き出すと、目指すクルマの車内に生田の姿を認めて、渋々と引き返して行った。
「起きたんですね」
通話を済ませて、宮下がクルマに乗り込んでくる。
「知り合い?」
男たちの背中を指すと、
「まさかぁ、しつこくて嫌になっちゃいました」
と屈託の無い笑顔を見せる。
その笑顔に、宮下ならばいくらでも男たちが声を掛けてくるだろうと思うと同時に、自分にそれを咎める資格も無ければ、相手に文句を言うだけの勇気も持ち合わせていない事実を、今更乍らに痛感した。
そして宮下は、あまりに無防備だ。
生来の性格なのか、まるで人を疑うということを知らないように見える。
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