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夏の始まり
「スロウイン、スロウイン、ファストアウト」
「ゆっくりぃ、ゆっくりぃ、はやく出る」
呪文のように口の中で繰り返し、血走る眼でフロントガラスを見据えながら、生田浩司は慎重なアクセルワークとハンドル捌きで、幾重にも連なる山道のカーブを粛々と駆け抜けて行く。助手席では先ほどから、宮下夏帆が小さな寝息を立てている。
お盆の渋滞を避けて、深夜0時に神保町のコンビニを発ってから、すでに三時間が経とうとしている。小田原の街から下田まで、伊豆半島の東海岸に沿って延びる国道135号線は、熱海の街を過ぎた頃から片側に相模灘を望む起伏の激しい山道へと変わり、運転に不慣れな生田は、クルマの揺れで宮下を起こさぬよう慎重に、慎重に、カーブをこなしながら、国道135号線をひたすら南下して来た。
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