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ビーチに残してきた荷物を回収し、カラダはすっかり乾いていたので砂だけ払うと、水着のまま宮下は黄色いワンピース、生田はアロハシャツを羽織ってクルマに乗り込んだ。
窓を全開にして更に国道135号線を南下して行くと、吉佐美大浜海水浴場には下田の街を抜けて一〇分ほどで到着した。
ビーチ手前の公共駐車場は、舗装こそされていないものの五〇〇台ものクルマを収容出来る南伊豆屈指の駐車場で、なかにはキャンピングカーで連泊している家族連れもいる。
大浜海水浴場はサーフィンのメッカでもあり、朝から波乗りをしていたのだろう、サーファーたちが昼を過ぎて波が落ちてきたのか、忙しなく帰り支度を始めている。
駐車場とビーチは大人の肩ほどの高さの防砂堤で仕切られていて、ビーチ入り口となっている防砂堤の切れ目の前では、やはり地元の有志が露天を出しており、ビーチパラソルやサマーベッドのレンタルを受け付けている。
生田たちは一番海に近い場所に空きを見つけてクルマを駐車した。
三人組から教えてもらったというサンドスキー場へは、その大浜の駐車場から更に十五分ほど海沿いの道を歩かねばならなかった。
炎天下に日陰の無い道を行くふたりを、夏の日射しが容赦なく照りつける。
「生田主任はスキーされるんですか?」
「したことはあるよ」下手だけど。
「スノーボードはされます?」
「やったことは無いな」無理だから。
「宮下さんは?」
「スキーは毎年、斑尾高原に行ってます」
「知り合いでインストラクターをしているひとがいて、そのひとに毎年教えてもらっているんです」
若くて可愛い女の子というのは、つくづく恵まれている。
「イケメンでスキーもすごく上手なんですよ」
そして出会いも、そこら中に溢れている、ときた。
「人生とはつくづく不公平だっ‼」
「え? 何ですか?」
いけない。つい口に出してしまった。
「いや、そしたら宮下さんもスキーすごく上手なんじゃない?」
「いやぁ、わたしなんて下手ですよぉ。ちっとも上達しなくて、スキーに行っているんだか、お酒を飲みに行っているんだかわからない、って言われてます」
「あぁ、眩暈がしてきた」
「えっ⁈ 大丈夫ですか?」
いけね、また言葉にしてしまった。
「あともうちょっとで到着しますから、もう少し頑張ってくださいっ」
日頃の運動不足が祟って、宮下について行くのが精一杯だ。
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