69人が本棚に入れています
本棚に追加
やっとのことでガードレールの切れ目に「サンドスキー場」の案内板を見つけると、入り口脇に山小屋のような小さな売店があり、軒先にレンタル用のソリが立て掛けられていた。レンタル用のソリは大中小と夫々赤、青、黄色で色分けされており、宮下は中でも一番大きな二人乗り用の赤いソリをレンタルした。
「一緒に滑りましょ。きっと重い方が、スピードが出て楽しいですよ」
なるほど、重り役であれば生田にうってつけだ。
ガードレールの切れ目から入って、腰の高さほどの草を分けながら、海に向かって崖を下りてゆくと、突然、目の前に傾斜三〇度はあろうかと思われる広大な天然のサンドスキー場が現れた。まさに砂のゲレンデと呼ぶに相応しく、海に続く斜面は五〇メートル以上もある。
斜面は、体重が軽い所為で、途中で止まってしまっている小さな子どもたちや、観光客、生田たちと同じく水着姿のカップルや、地元の小中学生たちで大いに賑わっている。
「じゃあ、最初はわたしひとりで行きますね」
なんの躊躇いも無く、宮下がソリに乗り込む。
「ちょっと押してくださぁい」
頼まれて小さな背中を押してやると、すうーっと一気に斜面を滑り降りて行く。
「キャー、気持ちいいっ」
宮下の背中がどんどん小さくなってゆく。
あっという間に下まで辿り着くと、ソリから降りて頂上の生田に向かって大きく手を振る。
リフトは無いので、ゲレンデ脇を砂に足を取られながら登って来た宮下が、息を切らしながらソリを手渡してくる。
「次は生田主任が行ってみてください。すっごく気持ちいいですよ」
勧められて恐る恐るソリに腰を下ろすと、今度は宮下が背中を押してくれた。
「う・・わぁぁー」
想像していた以上のスピード感に、思わず声が上がってしまう。
迫り来る海面の恐怖につい仰け反ると、更にスピードが上がって、その恐怖に思わず足でブレーキを掛けてしまった。その途端にソリがバランスを失って、生田はそのまま砂の斜面に放り出された。
「うぎゃぁぁぁぁぁぁぁ・・・・」
奇声と共に砂の斜面を転げ落ちてゆく。
汗ばんだ肌に乾いた砂がまんべんなく塗されてゆく。
バンザイの恰好で顔まで砂塗れになって、やっとのことで下まで辿り着いた。
振り返ると、頂上で事の一部始終を見ていた宮下が、腹を抱えて笑っている。
ソリを抱えて頂上に戻っても、まだ宮下は笑っていた。
砂塗れになった生田の姿を見て、
「エビの天婦羅みたいですぅ」
と、遠慮が無い。
「それを言うならトンカツでしょ」
尚も自虐的である。
「いやぁ、なかなか難しいって」
「じゃあ、こんどはふたりで行きましょ」
「はい、先に乗ってくださーい」
宮下がソリを置いて、生田の座る場所を指す。
言われるままにソリの一番後ろの部分に腰を下ろすと、宮下が生田の両脚を割って間に腰を下ろした。そのまま生田がソリの前部に括りつけられた手綱を持つと、ちょうど宮下を後ろから抱きかかえるような恰好になった。
宮下のお尻が生田の股間に押し付けられている。
宮下は気づいていないのか、それとも気づかない振りをしているのか、一向に気にする素振りを見せぬまま「さぁ、行きましょうっ」と、元気よく砂を蹴った。
宮下の言う通り、ふたりだと更にスピードが出た。
ふたりを乗せたソリは、ジェットコースターのように勢いよく斜面を滑り降りて行く。
生田の眼前には、風に靡く宮下の黒く長い髪と白く細い頸があって、後ろから抱き締めた宮下の小さな背中からは、花のような甘い匂いがしている。
ずっとこのままでいたい。夢のような時間だった。
今度は転ぶことなく、無事に下まで辿り着いた。
「もう一回、滑りましょ」
嬉々とした表情で子どものようにはしゃぐ宮下に続いて斜面を上っていると、先を行く宮下の黄色いワンピースの裾が海風に捲れて、青い水着に包まれた宮下の小振りだがカタチの良いお尻が覗いた。
水着こそ着けているものの、ソリ遊びの所為か、水着の生地がお尻の割れ目に食い込んで、まるっきりお尻のカタチが見て取れる。
その姿をぼんやりと見上げているうちに、すっかり生田の股間が硬くなってしまった。
「ヤバイ、ヤバイ・・・」
「え? 何か言いました?」
前を行く宮下が振り返る。
「いや、何も」
こんなところを見られでもしたら、上司としての威厳も何もあったもんじゃない。
それも宮下が生田を上司として尊敬していれば、の話しではあるが。
次も同じようにして生田が先に乗り込み、その脚の間に宮下が腰を下ろした。
宮下が腰を下ろした瞬間「あっ?」と何かに気づいたように小さく声を上げて、生田を振り向いた。
気づかれたのだろうか?
「え? 何?」
勤めて冷静に振る舞う。
「いえ」
宮下は何事も無かったかのように前を向き直し、更にお尻を押し付けてきた。
結局、ふたりして盛大にコケるまで、その後、五回も一緒に滑った。
最初のコメントを投稿しよう!