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「薫君」
「あ、湯浅さん」
薫が白波瀬に何やら施しているのをドアの隙間から見ていた湯浅は、そのまま廊下で待っていたようだ。
「社長は?」
薫は閉まり切ってはいない隙間から再び寝ている白波瀬を確かめて、完全にドアを閉めてから湯浅に微笑んだ。
「眠っています」
湯浅は信じられないとでも言うように声を潜めつつ眉を上げる。
「眠ってるだって?」
「疲労が強くあるようだったのでリフレクソロジーを施していたんです。
過剰な興奮と疲れだけでも取れればと思って」
「君の話す声が聞こえたけど?」
「北の国に伝わる物語を話していたんです。
でも、終わらないうちに眠ってしまいました」
「物話の途中で、、、って。本当に?」
真面目な湯浅でも『子どもかっ』とツッコミたいところではあったが、白波瀬の不眠は薬でも効かないほど深刻であったから今は驚きの方が勝った。
「いや、、、びっくりだな」
「あ、湯浅さん。
白波瀬さんの足の爪、少し伸びてました。
オーダーの靴を履いている分、少しでも伸びると違和感が生じて疲れに繋がると思うんです。
時間があるときにケアさせてもらいますから、明日にでもそう伝えておいて下さい」
「、、、、」
細かいところにも気のつく薫に湯浅の口は開いたままである。
「湯浅さん?」
「あ、、、ああ、ちゃんと伝えとくよ。
夜中に仕事をさせて申し訳なかったね薫君。
後は僕に任せてゆっくり休んで」
薫が頭を下げて部屋に戻るのを見届けると湯浅は、
『さすがだ』
嬉々としたものを顔に張り付け、握った拳を僅かに振った。
『凄いぞメイト!』
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