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幸いにも白波瀬は自分が薫のメイトだということはまだ知らないでいる。
本人も『薫にメイトが現れれば自分は用済み』だと口にしていた。
であれば桜庭に協力してもらい、白波瀬のテリトリーから外すことも可能だろう。
そうなっても白波瀬のことだから、薫の生活に関しては不自由のないように援助を続けるに違いない。
が、最近の白波瀬を見れば薫への執着はすでに相当なところまできているのは明白で、二人を離すとすれば時間はない。
『失恋の傷を引きずっている今のうちならば何とかなるかも、、、』
「湯浅さん。
僕は白波瀬さんから『支配』されるかも、なんて思ってません」
薫は柔らかい割にはしっかりとした意思表示を口にした。
「、、、、」
湯浅の聞き間違いでなければ、薫にとってこれまでの白波瀬の態度に不信や不安がないということになる。
久しぶりに緊張を覚えつつ湯浅は勇気を出して訊いてみた。
「あの。
薫君は今、白波瀬社長のことどう思ってる?
つまりその、、、。
前に、社長を知るごとにアルファへの印象が変わるって言ってただろ?」
薫は動きを止めて目を伏せてしまった。
「、、、、」
「追い詰める気は全くないんだ。
ただ、今の薫君にとって白波瀬社長が負担なら何とかしてやれるかなと思っ」
湯浅は慌てて手を振る。
「僕も不思議なんです」
「え」
目を開けた薫は湯浅を見上げた。
「ドラッグ浸けで、お腹に子供のいる僕を見返りもなしに丸ごと受け止めてくれる人なんて白波瀬さん以外にはいない。
こんな身体でも僕はオメガだから、発情すれば白波瀬さんを悦ばせることはできる。
もちろん湯浅さんがそんなことを期待してるわけではないことはわかってます。
でも『僕と白波瀬さんが恋愛関係になれば』って思う気持ちがあるのは知ってます」
「薫君、、、」
「だけどすみません。
正直なところ、助けてくれたから好きになれるわけでもなくて。
、、、せめて誠心誠意働いて僕なりの恩返しをしようって思ってました」
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