Requiem

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薫は再び手を動かして衣類の整理を始めながら続けた。 「白波瀬さんを知れば知るほど湯浅さんの言う通り、凄い人だと思いました。 アルファ故の地位があって、大会社の社長という立場もあって、その上純血統なら何もしなくても良いくらいなのに、あんなに身を粉にして働くなんて。 この家で働く人たちが話すのを聞いててもわかったんです。 『慣れて手際が良くなると、それをきちんと見てくれて給料が上がる。 社長は自分達の為にも働いてくれている』って。 自分で自分を偉大だと讃える人はたくさんいるけど、湯浅さん始め、多くの従業員に言わせる人は本物です。 部屋での仕事上のやり取りを端で聞いていれば、別人かと思うほど厳しくて、冷たくてドライ。 でも相手への労いの言葉もちゃんとある。 些細なことをとても大事にしてるのが わかって」 「そ、、、 そうっ、そこ! そこなんだよっ薫君!」 薫は頬を染める。 「白波瀬さんのこと、好きか?  と訊かれれば今は好きです。 『気は心』、、、って言いますよね? 僕は湯浅さんの言う、群れ(パック)を率いる覚悟、厳しさの中にある優しさや責任感。 そんなものを生みだしている白波瀬さんの『心』が好きです。 今の僕はそこに惹かれているんだと思います」 「よ、、、」 湯浅は両手で顔を覆ってキャビネットに突っ伏してしまった。 「良かったぁ、、、。 良かったよ、社長の本当の性格を理解してくれて」 「そんなに気を遣わせてましたか、僕」 「いやいやこっちの問題。 社長の悪い面ばかりが際立ってたから」 「悪い面て?」 「君がいるにも関わらず男娼呼ぶわ、 チン、、、半裸でリフレクソロジー施術させるわ、挙げ句に物語の途中で寝るわ、横柄な態度は相変わらずだわ。 そのくせ玉葱食べられないし」 そのセリフに ひとしきり笑った薫は、 「確かに白波瀬さんを知らない人が上辺だけを見れば、傲慢で横柄で自分勝手で相当な自信家かも知れませんね。 でも僕はそういう白波瀬さん、嫌いではないんです。 不思議と言ったのはそれが似合ってて魅力的だと思ってしまってるから。 僕に対しての独占欲も、、、」 そこまで言って止め、恥じらう花のように首を振った。
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