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白波瀬は己を取り戻すべく目を閉じた。
「青い蝶の話をしてくれ、続きからでいい」
「はい」
足元に座る薫は乳液を手に取り、いつものように足裏を緩やかに解し始めた。
「── 可憐な花に恋をしたヴェルソー。
自分の為にこそ咲いたのだと信じた彼は花の訴えに耳を貸さず、蜜を吸おうと大きな羽をたたんで花の上にとまってしまったのです。
ヴェルソーの重みで花は根元から倒れ、花びらは散ってしまいました。
愛でる花を散らされて、悲しみと怒りに狂ったのは泉の神です。
泉の神はヴェルソーを殺そうとしましたが、森の木々と虫たちに止められました。
『泉の神よ、彼を殺してはなりません。
青く輝く蝶は偉大な星神の子なのですから』
と。
泉の神は残った球根に清らかな水を注ぎ続け、次の春、再び花を咲かせることができましたが、ヴェルソーが近づくのを止める手段がありません。
再び花が咲いたことを知ったヴェルソーは、今度こそ散らさぬよう、飛びながら蜜を吸おうと近づくのですが、花はヴェルソーが近づくとすぐに下を向いてしまうのです。
大好きな花に拒まれたヴェルソーは寂しさを紛らわすため、青い蝶のままとなり手当たり次第にそこここの花の蜜を吸い散らしました。
そこで、森の木々と虫たちは話し合ったのです。
『あのヴェルソーをおとなしくさせるには、どうしたものでしょう』
『それは何をおいても花(嫁)を持たせるのが一番です』
『どこかにヴェルソーをおとなしくさせる香りを持った、とまっても散ることのない花は咲いてないだろうか』
その結果 ──」
白波瀬が眠りに落ちたのを見て、薫は温めておいたタオルで白波瀬の両足を包むと胸に抱いた。
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