Requiem

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翌日の午前中、 ─── 「アルニカと、、イブニングプリムローズ、、、」 薫は運転手とセキュリティに同行してもらい、一番近いデパートへ来ていた。 一通り見て回り、最後に二本のオイルに絞り込んだところで、立派な体格をした女性のセキュリティが辺りを伺いながら薫に声をかけた。 「クリスマスも近いので混雑してきましたね。あと30分ほどで出ましょうか」 「すみません、あと一ヶ所だけ寄りたいところがあるんですが。 すぐに済みますので」 会計を済ませた薫は、その後ベビー用品のコーナーまで同行してもらった。 身体には何の変化もないし、産まれるのは まだまだ先なのだが、徐々にでも知識と準備は必要だろうと湯浅に相談したところ、 『知識に関してはオメガ専門の桜庭先生に訊いた方がいいね。 準備は急がなくても大丈夫。 安定期に入ったら一緒に専門店へ行こう。 マタニティウェアもベビー用品も日々進化してるそうだから、そっちも店の人に訊くのが一番だよ』 と胸を張って答えてくれた。 とはいえ、せっかく外に出たのだから一つくらいは何か役に立ちそうなものを買っておきたかった。 フロアを移動し、ベビー服などにさっと目を通したが、、、 「うそだろ、、、」 大して面積のない肌着一枚にも驚くほど高い値が付いている。 手に取った布を戻しかけた時、たまたま白生地にブルーの蝶の刺繍があるスタイを見つけると、時間いっぱい悩み、、、 思いきって購入を決めた。 賑やかな音楽、 絶え間ない雑踏に人々の会話 ── そして好奇の目。 プロテクターをしている自分が珍しい属性なのはわかっている。 視線を集めないよう声を抑える癖は相変わらずあったが、それも直していかないと、と 「ありがとうございます、これで買い物は済みましたので」 セキュリティの人に声を張ってフロアを出た。 その時、 「かー、おー、るー、、、ぅ」 近くから耳に憑いて残る、決して忘れてはいない声が聴こえた。 「この声、、、」 嶽部、、、だ 瞬時に血圧が上がり、背筋に水でも浴びせられたように身が硬直した。 目を動かして辺りを確認したが姿はない。 「薫さま、こちらへ」 セキュリティも声を発した男の気配に気づいたのか、即座に袋ごと薫を抱えて方向を転じた。 通路で待機していた運転手が、 「おい、あんた!」 どこかに向かって怒鳴る。 ズクンッ、、、 「うっ、、、」 そこからいくらも進まないうちに薫は腹を押さえてその場で崩れてしまった。 「薫さま?」 「、、、痛、、、い」 腹部を押さえて、しばらく座り込んでいると、床の冷たさが下着に濡れた感触を伝えてくる。 セキュリティはイヤホンを通してスマホに指示し電話をつなぐ。 「湯浅さんにコール」 『出血してる』と、すぐに感じた薫は 女性を止めて言った。 「病院へ、先に桜庭先生に連絡して下さい」
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