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聖コントリビュート研究病院
───
「薫君」
湯浅が病室のドアを開けると、薫はベッドの上で身を起こしていた。
横に立つ桜庭から腹の子供が辿った経緯を聞いた直後であったようで、陰鬱な顔を下に向けている。
「白波瀬さんは?」
桜庭は湯浅の後ろに白波瀬の姿を探しながら訊いた。
湯浅は息を整えると、ゆっくりと薫のいるベッドに近づき軽く頭を下げた。
「社長は、、、重要な仕事が入っておりまして」
「来られないのですか?」
こんな肝心な時にも仕事が優先か?
と思う桜庭の語尾はつい強くなってしまう。
「申し訳ありません」
「電話では処置と申しましたが、ここへ到着した時には出血も止まってましたので確認のため超音波検査をしただけです。
大事をとって一晩お預かりしてもいいのですが、薫君が帰りたいのならば退院して下さって構いませんよ」
桜庭は湯浅の耳元で、
「薫君はかなり自分を責めています。
メンタルケアが必要でしたらいつでも来てください。院内の専門医科に繋げますから」
言った後は薫に、
「副作用のこと、言わなくて悪かったね。
でも我々としても奇跡を望んでたんだよ。
残念な結果になってしまったけれど、ドラッグと性交渉を強要された君に責任はない。
それだけは心に留めておくように。
今は身体を元に戻すことを第一に考えて」
目を伏せて出て行った。
「ごめんな、薫君。
なるべく早く社長を来させるようにするから」
言ったはものの、
黙って首を振る薫が今は白波瀬すら拒んでいるようで、湯浅にはそれ以上かける言葉が見つからなかった ──。
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