Requiem

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二人が入っていった店は、つい最近まで薫が監禁されていたサロンである。 ─── オーナーの樋口は積住建設の代表、白波瀬本人から直に連絡を受け、頭数(あたまかず)を揃えて待っていた。 「そちらの方は?」 樋口は座ったまま小柄な男を睨みつけて訊く。 「うちの従業員だ。証人として連れてきた」 濡れた傘をソファと仕切りの間に立てた白波瀬は、コートを脱ぐことも手袋を外すこともなく連れの男と並んで座った。 「念のため調べさせて頂きますよ。 、、、おい」 樋口はその場にいる仲間に合図し、小男にIDを出させて照会させたが、確かに男は積住の社員として登録されていた。 国警やその類いでないとわかると、樋口は安堵の表情を浮かべ、白波瀬に見えるよう置かれたタブレットにネットニュースの見出しを表示させ、 「証人、ね。、、、そうですか。 まぁ、、、額が額ですから。 ですがお伝えしたのは現金のみ。 足のつく決済はお断りしたはずですが?」 事前に億を超える金銭の要求をしたにも関わらず、白波瀬はもちろん付き添いの小男も手ぶらであることに苛つき、テーブルをトントンと指で叩いた。 「このネット記事は嶽部さんに代わって我々が飛ばしたほんのご挨拶(・・・)です。 彼のお父上は、御社とも関わりのある政界の大物、あの方を敵に回すとどうなるかは白波瀬さんの方が良くご存知でしょう?」 そこまで聞いた白波瀬は隣の男に目配せし、再び腕時計に目をやった。 「確かにそちらから一方的且つ妙な挨拶(・・)はあったようだ。 しかし私には言われのない挨拶を受ける習慣はない」 白波瀬からの合図を受けた男は、勝手にタブレットを引き寄せて操作した。 「こちらの指示通り、各局の報道が始まりましたね。樋口さん、これを見てください」 樋口に向けた画面からはブレーキングニュースが流れ出している。 『── 速報です。 カジノを含む統合型リゾート施設事業を推進するIR国土開発担当大臣の嶽部氏が、先ほど収賄容疑で逮捕されました ──』 驚いた樋口は身をひねり、 「確認しろ」 背後に立つ者に指示し、店内にある大型のロールスクリーンにも目をやる。 すぐに映し出された画像には、逮捕された嶽部の父親が送検されてゆく様子があった。 「ま、間違いないようです、樋口さん」 「意味の無い交渉を持ちかける前に、私に敵がいるかどうかくらい調べるべきだったな」 白波瀬と男以外の全員がスクリーンに視線を留めたまま動かせずにいる中、一人立ち上がり、塵を払うようにコートの前を整えた白波瀬は横にいる男を見下ろして訊いた。 「人身売買と違法風俗営業。 現場を提供した樋口の顔写真でもあれば、嶽部の暴力事件と併せ、そこそこの記事になるか?」
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