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わたしが中学生の頃、車の事故に遭って命が危ぶまれた時に、龍神さまにとってとても大切な龍珠を手離してまで助けてくれた。
その龍珠の力でわたしは生きている。
そんなこんなで、龍神さまはわたしから目が離せないらしい。すっかり俺の嫁扱い。
お昼、学内のテラスで孝太と昼食を食べていたら、龍神さまが飛んできて人の姿で現れた。
みんなが振り返る白衣を着た見目麗しすぎる姿。
「さっきは階段で派手にコケてたようだな。まったく……生傷をつくりやがって」
まるで転んだのを見ていたかのようで、擦りむいた手をつかむとその口元に持っていった。
傷を直してくれてただけなのに、わたしの顔が熱くなった。
龍神さまは、ふんっと、満足そうに笑う。
と、次の瞬間に、
「妖狐の……九尾の狐野郎の気配がする」
言って、振り向くと同時に、拳を突き合わせたのは、白い九本の尾を持つ妖狐の化けた人の姿をしたあやかしだった。
「残念。龍神を倒せば、ゆうは俺のものになったのにな」
「誰がやるか」
そこにもうひとり。
「俺を忘れてもらったら困るな。当然、俺も参戦するに決まってるだろ?」
あやかしの鬼、それも次期鬼の頭領になる鬼。
後ろからぐいっと顎を引かれて顔を近づけられた。
キスされそうになって、龍神さまは慌ててわたしを懐に閉じ込める。
「触るな」
龍神さまは美形すぎるあやかしふたりを琥珀の瞳で睨む。
龍神さまは龍珠がわたしの体の中にあるから心配し、それが愛情だと勘違いしている。
あやかしふたりがわたしに近づくのは、わたしを好きだから近づいているのじゃなくて、龍神の「龍珠」があるわたしを手に入れたいだけ。
龍神さまを失いたくないわたしは何も言えないでいる。
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