テラス 1

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テラス 1

「あ~あ、ほんと、掃除ってキリがないよね~」  というため息交じりの言葉が、風に乗って俺の耳に届いた。  気持ちのいい春の午後3時。  白金台のシャレたオープンテラス。 「ほんとだよ。終わった傍からまたゴミが出る」  相槌の声にもため息がほのかに混じる。  テラスに散らばるいくつかのテーブル。  そのひとつに座った俺の、背後から会話は流れていた。  振り向かなくても、匂いと気配でわかる。  ひとつは甘いバニラの香り、もうひとつは爽やかなシトラス系。  どちらもまだ若い、女の二人連れ。  話題からして、主婦友に間違いない。  しかも、ここは白金台。つまりは、シロガネーゼだ。  来たーっ!  今日の訪問販売が軒並み空振りだった俺に、神様がくれたチャンス!  俺は内ポケットからそっと手鏡を取り出し、素早く身だしなみをチェックする。  髪型よーし! ネクタイよーし! 笑顔よーし!  ついでにちらっと背後を覗くと……  うわっ!  び、美女!  バニラ系の香りの主は、栗色のソバージュ。モスグリーンのワンピが大人っぽくも愛らしい。つぶらな瞳と、ふっくらした唇は喩えるなら艶やかな薔薇。  シトラス系の香りの主は、黒髪のショートボブ。ストーンウォッシュのブルージーンズにあっさりシンプルな白いシャツ。切れ長の瞳と、高い鼻梁は喩えるなら清廉な百合。  仕事で行く?  それとも、ナンパ・モードに切り替え?  迷うっ。  迷うけれども……  やっぱ男は仕事だろっ!
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