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アパート 1
『……燃えるゴミの中から男性の右腕が発見された事件で、警視庁はその手に一枚の名刺が握られていたことを明らかにしました。名刺は、大手総合商社の人事部長のもので、先週木曜日から行方不明となっており、被害者である可能性が極めて高いと見られています。右腕以外の部分については未だに発見されておらず……』
西日が差す、狭いアパートの部屋。
あたしはリモコンでテレビを消した。
暗くなった画面に、うっすら自分が映る。
ぼさぼさの髪、化粧もしていない顔……もうこの状態で、一週間が経つ。
ピンポーン!
呼び鈴が鳴って、あたしはビクッと身をすくませる。
インターホンに、恐る恐る「はい」と出ると、カメラは宅配便の若い男性を映していた。
「お荷物のお届けです」
怖くて外に出られないから、ネットで食料やらを買ったのだ。
しかし、あたしは「そこに置いてください」と頼んだ。
宅配便の人が行ってしまってから、あたしはそっと部屋のドアを開け、アパートの廊下に置かれた段ボールを中に運ぶ。
まだ、無理だ。
男の人は。
思わず、スマホを開いてSNSに書き込んだ。
『宅配便が来た! 男の人……でも、無理。出れない。まだ、無理……』
『怖い、怖い、怖いよ。男の人が怖い……』
スマホを閉じようとした瞬間、ポンと通知音。
開いてみると、『社会のお掃除サービスのご案内』とうDMだった。
いつもこの手のDMはほぼ無視。
でも、その時は何か予感のようなものがあって、それを開いた。
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