人はそれを我儘と言う

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一体何があったのだろうか。 そう思うのは至極もっともな事、そしてガラ…っと再び開けられた扉の先から現れたのは、これまたデカイ。 おぉ…っと見上げた先に短く切られた金髪の男がむぅっとしたまま赤い顔で立っていた。 (すげ、タッパもあるけど…) 十時の眼に入ってきたのは、その胸板。 明らかに鍛えられたそれは、自分の腕を掴む河野の倍はありそうだ。 恵まれた体格と言うものだろう、男としては羨ましい事山の如し。 さぞかし腹筋も美しい割れ具合なのだろう。 なんて、そんな事を思いながらぼやっとしていたが、目の前の金髪男は十時とその隣で密着する河野を見るなり、ガッと目を見開いた。 「な、何でそんなにひっついてるんだよっ!離れろっ!!」 「は?」 びしぃっと指差されたのは、十時。 「お前だよっ、和沙から離れろつってんだよっ!」 いや、この場合離れるべきは河野の方だ。 自分に言われてもどうしようも無い、が、金髪野郎はもう瞬きすらせず、ギラギラと睨み付けるだけ。 目の乾燥が心配される中、最初に出てきたメッシュの男が笑いを堪えるかの様に身体を震わすのが見えるが、笑っていないで何とかして頂きたい。 「…何、何なの、この状況」 ちらっと腕を見遣れば、見上げた河野のくりっとした強い眼差しが十時を射抜く。 矢張り綺麗な顔立ちだ。 そうして、河野、金髪男と視線を交互にやった十時の頭上にポンっと浮かんだ憶測。 と、言うより、これが事実な筈。 「河野…お前この人に告白されたのか」 先程聞いた告白。 それはこの金髪野郎から河野への想いだったのだろう。 自ら進んでした訳では無いが、どうやら馬に蹴られる権利を得たらしい。有難迷惑だ、こんちくしょう。 けれど、そう考えたら益々自分には無関係なこの時間。これ以上此処に居て、薮から蛇まで出すなんて事になったら笑えない。 掴まれた腕を抜くべく、十時はやんわりと河野の手を払おうとしたのだが、 「ねぇ」 形の良い唇から凛とした声。 「え?」 「僕達、付き合ってるよね」 「え?」 「僕達、今日から付き合うんだよね」 「…………」 ーーーーーーえ? 十時の眼と口が同時に開く。 さながら猫がフレーメン反応を起こしたかのようなそれだが、河野は全く気にもせず、顔だけを金髪野郎へと向けるとぎゅうっと身体を十時へと押しつけた。 「先輩、そう言う訳なんで、僕達今日からお付き合いを始める約束をしていたんで、諦めて下さい」 何、どう言う事? 今この場で一番話について行けていないのは、誰でもないこの十時だ。 意味が分からない、どうなっているのかも分からない。 混乱する頭が何一つ指令を送らない、送ってこようともしない。 ただ一つ、分かる事と言ったら… 「お前…どう言う…事、だ…」 ミシ…っと音を立てたのは金髪野郎が掴んでいた教室の扉。 『お前』とは一体誰を指しているのでしょうか。 嫌な予感しかしない。 不穏な空気しか感じない。 (うそぉ…) ーーーーーーーブンっ…!! その瞬間、空気を切り裂くような音とえらくデカイなと感じる拳が見えた…。
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