サブリミナル効果

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「じゃ、十時はもう僕とキスとかしない、って事だな」 「……いや、だから理由、無いし」 「理由とかそんなん全部すっ飛ばして、僕とのキスは気持ち良くねーの?そう言う解釈でいいってことだよなぁ」 「………あー…」 そう問われてしまったら、また言葉が詰まる十時はそろりと視線を泳がせる。 「……き、もち、いい、けど…」 「ふぅーん」 じぃっと見下ろされる視線が痛い。 確かにこの遣り取りを事情を知らない第三者として傍観すれば、十時の言っている事はただのクソビッチだと思われても仕方が無いかもしれない。 (自分でもそう思う、かも…) 罪悪感、嫌悪感湧き上がる負の感情に気持ち悪さすら覚える。 そして、 「それさぁ、志木が相手だったらどうだよ」 「………」 湧き上がる嘔吐感が物語る。 見事に青くなった十時の顔を前に、楓はふっと笑みを浮かべた。 「だったら、河野和沙は?」 「…無理、っす」 河野は文句無しに愛らしい顔立ちだ。 けれどそれでキスが出来るかと聞かれたら、無理だと断言出来る。 愛らしが故に、我儘も不遜な態度も全部可愛らしい弟の様な感覚でしか見れない。 「だったら十時は僕の事多少なりは好きなんじゃね?」 「えっ」 そう、なのだろうか。 いきなりの好きと言う好意の言葉。 それに首を捻るも楓は続ける。 「キスも出来るし、えっちも出来る。二人で居たって嫌じゃないんだろ?」 「そー…っす、ね…」 嫌じゃ無いから困ると言う部分も多いにあるが、それが好きだと言う感情から来るものであるのならば、楓に大なり小なりの好意は持っているのかもしれない。 半ば無理矢理感はあるが、思考をそう固め、不安を込めながらも改めて楓を見上げれば、にやりと笑う唇が眼に入った。 「僕は結構十時を気に入ってんだよ、こう見えても。じゃなきゃ男とキスなんてしねーよ」 「…はぁ」 「取り敢えずお試しで付き合ってみるっつーのは?冬まで付き合ってみて、それでも駄目ならお互い仕方ないっつー事でさぁ」 冬まで。 意外と長いし、普通に付き合っているカップルでも関係が終わったと言われても可笑しく無い期間だが、 「わかり、ました…」 とうとうこくりと頷いた十時は、何処か腑に落ちない感覚と言いくるめられた感を感じてはいるものの、ぼりぼりと照れ臭そうに頭を掻くと楓を見上げた。 「お付き合い、って事で」 「いいね、十時。すげーお利口じゃん」 茶化す様に笑う楓はいつもと変わらずに見えるが、本当に自分の事を想う気持ちはあるのだろうかと疑いを持ってしまう。 でも、目元が赤く見えるのは、そういった自分の願望が見せた錯覚なのか。 (よく分からん…) 気付けば玄関口で30分は棒立ちで話をしていた。一応話も終ったようだ。 「あの、じゃ、まぁ…」 「じゃ、おじゃましますぅー」 「えっ!!」 今日はおやすみなさい、と告げようとした十時の隣を当たり前の様に通り、ずかずかと部屋に上がり込む楓はそのまま我が物顔でベッドへと腰を下ろした。 「ちょ、先輩っ?」 「やっぱ寮内に恋人が居て、一人部屋なんて都合の良い条件下に居るんなら一緒に寝るのが当たり前だろー」 え、何それ何ルール? もぞもぞとベッドへと入り込む楓を前に慌てる十時は『あんたがベッドで寝たら俺は何処で寝るんだよっ』と至極真っ当な疑問を口にするも、 「はぁ?だから一緒に寝るって言ってるだろうが」 自分の隣をぽんぽんと叩く楓に頬が引き攣る。 「何、言ってんの…?」 「お試しとは言え、付き合ってんだろ?一応それなりの事は一通りしようぜ」 「……いや、あの、」 それなりの事? 一通り? 言われた事を脳内で分解、組み立て、解読を光の速さで処理した十時の顔がみるみる間に赤く染まると、楓を見詰めた。 ごろりと寝転がっているだけなのに、そこだけがまるで違う空間に見える。 「電気消してから来いよ、十時ぃ」 眼鏡を外し、三日月を描く眼から、唇からどうしようもなく眼が離せないと十時は思いっきり顔を歪めた。 ***** たまにあるある、こう言う日。 1:目覚ましよりも先に眼が覚める。 「…あぁ?んだよ…まだ10分も寝れるじゃねーかよ…」 ごろりと二度寝するも、 「……寝れねぇなぁ…」 2:普通に起きるよりも100パーセント目覚めている。 仕方が無い。 明日は土曜日、金曜日の朝くらいは早く起きてみるかと志木はベッドを降りた。 鍛えた背中の筋肉を思いっきり伸ばし、ついでに首を回せばゴキリと鳴る骨の音。 きっと幼馴染の同室者は起きてコーヒーでも飲んでいるだろう。自分の分も淹れて貰うかとリビングに続くドアを開けると、予想外にそこには誰も居ない。 それどころか、人が居る雰囲気も生活音も無く、しんと静まりかえっている。 「…楓?」 珍しく寝坊だろうかと思ったその時。
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