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楓との関係は付き合おう云々の前と何ら変わりが無い様におもえる。
何日か起きに楓がチーズケーキを作り、それを十時に届け食べさせる。
食べた後は二人でまったりと過ごし、時折キスをされ、互いに昂っている時は欲を吐き出す。
流石に舐めようか、のお誘いには首が千切れんばかりの拒否を見せた十時だがそれも興味がないのかと言われたら否で、時間の問題の様な気がする。
けれどあの顔が自分のモノを舐める等、不道徳感と罪悪感で押し潰されるかもしれない。
ただ、それ以外は本当に普通の先輩と後輩の関係そのもの。
恋人らしい、とは一体どう言う事なのか、全く経験の無い十時にとっては解明し難い。
(まぁ…別にそれがどうこうって話じゃないけど…)
右も左も分からない十時に対して、別に楓は何ら問題視している風では無い。
自分の好きな事、やりたい事をやっているだけ、そう見える。
ただ色々な事は十時に指図、いや、指南すると言うか。
『舌出して』
だとか、
『もっと吸って、飲み込めよ』
だとか。
おかげでキスが終わればヘロヘロになる十時を楓は笑っている。
笑いながら、また目元や頬、顎や首筋に唇を寄せるのだ。
(笑ってるって事は…一応楽しいのか?)
触れるって事はやっぱり自分にそれなりの好意があるのか。
「………あー…」
考えてみてもよく分からないが、唯一分かる事と言ったらーーーー。
(今日辺り…チーズケーキの日だろうな…)
チーズケーキを食べる十時の姿を案外嬉しそうに見ている楓が居る、と言う事だ。
*****
「ナッツフレーバーをビスケット生地に混ぜたんだけど、どう?」
「…う、うめぇ…っ!!」
本日のチーズケーキはベイクドチーズケーキ。
下のビスケット生地に練り込まれたナッツの香ばしさがチーズとは違う風味で嗅覚を楽しませてくれる。
レアチーズが一番好きだと思っていた十時だが、最近ではこのベイクドが一番好きかもしれないと思う。
こんがりと焼けた表面とぎっちりと詰まった生地。
フォークを刺した時にどっしりと乗る重量感が堪らない。
口の中の水分も全部持ってかれそうになるが、それでもこの贅沢とも思えるチーズの濃厚さに幸せを感じてしまう。
「あー…まじでうまぁ…」
「お前、旨いしか言わねぇな」
頬を膨らませ、もっもっと食べていく十時をソファに座りコーヒーを飲みながら呆れた風にそう口では言うが、眼鏡の奥の垂れた眼が嬉しそうに弧を描いている。
「だって…旨いから」
「はは、そう」
ついでに楓が飲んでいるコーヒーも自室から持ち込んだもので、いつの間にか十時の部屋のポット脇に置かれ、マイカップまでも。
たまに部屋にやって来る河野達に気付かれるのでは、と思いもしたが存外鈍い彼等達は平和そのものだ。
「ご馳走様でしたっ」
4分の1程を食べ終え、残りをラップすると冷蔵庫へ。
これで明日も朝からチーズケーキが味わえる。
それだけでも明日が楽しみになってしまう。
「今日も有難う御座います」
楓に礼を言い、目の前の対のソファに座ろうとすれば、揺れる手招き。
「………失礼、しまーす」
この楓の側に寄る時の緊張感は未だ抜けない。
楓の身長は188センチあるらしく、流石にすっぽりとまではいかないにしろ、十時との差は14センチ。
この差は大きい。
自分と同じく途中まで空手をしていた為か、スレンダーに見えるが意外とがっしりとした身体、手足が長く隣に座れば肩に回された腕が余裕で十時の肩を抱ける。
「十時、キスしよー」
「…ういっす」
ちゅっと軽いリップ音と触れる唇の柔らかさに背中を走る甘い痺れ。
悪寒にも似たそれが快感だと気付いたのは何回目のキスだろうか。
「な、先輩」
「何?キスに飽きた?次進む?」
次、とはーーー?
いや、それは追々として。
「そうじゃな、くて、」
「僕としては全然いいよぉ。抜きあいだってしたし、そろそろ後ろ慣らす?」
後ろを慣らす、とはーーー?
ふるふると青白く変化した顔色で首を振る十時に、声を出して笑う楓は、
(…楽し、そう、だ、よなー…)
言葉遣いも若干柔らかくなっていると思っていたが、どうも気の所為では無いようだ。
「んだよ、男相手は初めてだけど僕絶対に上手いと思うけど。物は試しだよー?」
「試し程度で人のケツどうこうしようと思わんで下さいよ…」
「ふーん。ケツ使うのは知ってんだ」
「……まぁ、そこそこ、には、」
気になって詳しく調べたなんて言ったら、きっとそれこそ暫くいいネタにされそうだ。
けれど、
「いいね、可愛いよ。そー言うとこ」
「………は?」
可愛い、なんて思春期過ぎてからは親にも言われた事も無い単語に十時の眼がぐるりと動いた。
純粋に恥ずかしい。
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