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触れ合った場所が火傷するんじゃないかと思える位に感じる熱。
無防備な口内にもぬるりと舌が入り込み、十時の舌の付け根までを犯そうとしているようで、反射的に腰が引けそうになるも、そのままじゅぅっと吸われ、まだ経験の浅い彼は必死に楓の服を掴む事しか出来ない。
ぐるりと口内を隅々と舌で舐めとられる感覚は酷く気持ちが良い。
夏休みが始まってからまだ数日しか経っていないと言うのに、もう長い事楓と会えていなかった、と錯覚していたが、その感覚がじわりと染みる様に段々と埋まっていく気がする。
(けど、それにしたって…っ)
少々乱暴でもあるような。
しっかりと固定された頭と楓の上半身とロッカーで挟まれ動けない身体。太腿の間にはしっかりと長い脚が差し込まれ、身動きも取れない。
それどころか膝で十時の股間を刺激してくるあたり、楓の性悪さを見せつけられる始末。
これ以上は本当にやばい。
色んな意味で色々やばい。語彙力失うレベルだ。
密着した楓の身体で擦れる自分の乳首もむずむずとした疼きが沸き上がり、いよいよ十時にも焦りが生まれた。
自分で触れる事は無かったとは言え、楓相手だとこんなにも簡単に反応してしまうのか。そんな事実羞恥以外の何者でもない。
「せ、んぱ、ちょ、ね…っ」
たっぷり数分。
ようやっと唇を離した楓が満足そうに口元を舐める。その仕草もエロい。
「気持ち良かった?」
どのツラ下げて言ってるんだ。
分かってる、めったにお目に掛かれない様な美貌だと言う事は痛いほどよく分かってるが、楓自身の目元も赤く、その色は欲情が見て取れる。
「…良かったです、けどっ、場所と場合ってあるでしょうが…」
こんな楓の親の店で、しかもバイト初日。
絞り出す様に恨みがましくそう言えば、ふふっと楽しそうに笑ういつもの声。
「一応、補充しといた方がいいかと思ったんだけど、お互い」
「へ、へぇ…」
お互い、と言う事は少なからず楓も自分に会いたいだとか思ってくれていたと言う事だろうか。
そんな事を考えてしまうと顔の熱はいつまでも取れない。
(平常心、平常心…)
心を落ち着けるべく、静かに深呼吸する十時はついでにそっと胸元に触れた。
立っていたら、どうしようか、なんて思っていたがどうやらセーフの様だ。
「じゃ、それ着替え終わったら厨房まで来いよ。今日やる事一通り僕が教えるから」
ちゅっと頬に唇を押し当ててくる楓に小さく返事をし、十時はのろりと着替えを始めた。
何だか此処までで既に疲れた気がする。
でも、激しいキスは何だかんだ凄く満足のいくもので、思わずにやけそうになる。しかも、まるで本当の恋人の様に扱われる事に対し、むくむくと膨れ上がる優越感。
(なんだかなー…)
袖を通すとぴったりなサイズのワイシャツに、感嘆の声を上げながらも、十時の心臓は未だに煩いままだ。
外観はあまり洋菓子屋と言うイメージの無かった店だが改めて店内を見ると、壁はオフホワイト、床はナチュラルな木目材が使用され、インテリア等はあまり無くシンプルではあるが、却ってそれがガラスケースに飾られたケーキを鮮やかに見せている様だ。
殆どのケーキには花や動物、ハート等の愛らしい形を施した飴細工が乗せられ確かに宝石の様に美しい。
(この店の名前の意味って宝石とか、そう言う意味だっつってたもんな…)
ガラスケースを磨き終えると次はイートインスペースのテーブルを消毒剤とダスターで吹き上げる。
周りにはクッキーやいろとりどりなマカロンといった焼き菓子がバスケットに入れられ、ケーキだけで無くこれらもドリンクと一緒に楽しめる様だ。
あまりゴテゴテ感の無い内装。
これならば男性も入店しやすいだろう。
(いい感じの店だよな…)
窓を拭きながらニマニマとそんな事を考えていると、早速外に客らしき女性達が数人集まってるのが見えた。
この店のオープンは11時。あと10分程で開店だ。
今更だが、初バイトに緊張が膨張したのが分かる。別に性格も見た目も社交的でも無いのは自覚している。
だが、せめて役に立てずとも、邪魔だけにはならぬ様、よしっ!と気合を入れ直し、透明度の上がったガラスを前に背筋を伸ばした。
*****
一言。
一言で感想を述べるのであれば、
「お疲れ様ぁ、十時君、大丈夫?」
「…俺はまだまだ甘かったです…」
ここのケーキ以上にな。
全く面白くも上手くも無い事を心の中でボソリと吐き捨て、それがダメージとして自分に帰ってくる。
いや、それでもまさか、
(ケーキ屋のバイトがこんなにハードだとは…っ)
よくよく考えてもみれば、飲食店と一緒。
食品を作るのだから、当たり前に材料は必要。
甘い砂糖だとか、小麦粉、バター、牛乳、卵。
これらを持ってポージングを決めた可愛らしい女の子が今からケーキ作りまーす♡なんて動画を撮っているのとは訳が違うのだ。
まず、それらはクソ程重たい。
それを運ぶだけでも大変だが、卵なんて繊細な食材に関しては細心の注意も必要。
直接何処かの牧場と取引をしているのか、運ばれた大量の卵を前に思わず喉が上下してしまった。
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