一枚に賭ける

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***** ちゅ、ちゅ、っと空調の効いた室内に響く音に気を取られると、余計な事を考えるなと言わんばかりに顎を掴まれ、自然と開いた口の中に楓の舌が差し入れられる。 綺麗にメイキングされていたベッドが台無しだ。 罪悪感すら湧く。 けれど、今考えるべきはそこでは無い。 「っ、!ちょ、せんぱ…い、待って、って」 ぞわりと腰から湧き上がる戦慄く様な震えを耐えるべく、目の前の服を掴んでやりたいが今の十時にはそれを出来る術がないからだ。 「十時ぃー、その眼鏡結構高かったから壊すなよ?」 「だ、った、ら、どっかに置かせて、下さい、よっ」 口付けの合間に抗議とか雰囲気が台無しだとか言われそうだが、文句が出ない方がおかしいと心の奥からそう思う。 何故なら、そう。 (何で俺が、先輩の眼鏡を持ってなきゃいけないんだよっ…!) 楓の眼鏡を持ったままだからだ。 しかも、それを指示しているのは楓だと言うのに壊すなよ、なんて飄々と言ってくる始末。 なんて理不尽な。 (無理じゃんかっ…!そんなの、無理、だぁ…) 「はい、十時。舌出して」 「いやだって、…んぅ…!」 何故無理なのか?とか愚問だ。 だってーーー。 こんなに綺麗な顔をした男に押し倒された状態で、こんなにエロいキスをされて、ずっとお利口に眼鏡を持っていろだとか拷問過ぎる。 縋る物が何も無い。 思考がブレる。 その為か、楓に言われた事を考える間も無くやってしまうのが酷く悔しい。 舌を出せ、と言われてすぐに出してしまう、とか。 「気持ち良い?」 「う、ん…っ」 馬鹿正直に返事を返してしまう、だとか。 いっそ、こんな眼鏡等どっかに置いてしまおう。 十時だってそこまでお人好しでは無い。 では、何故しないのか。 これも、また愚問。 「めっちゃいい子じゃん、十時」 「眼鏡持ったままでも上手だな、お前」 これだ。 こうやって笑う彼の姿に喉が引き攣り、身体が固まってしまうのだ。 ただ、安易に褒められただけ、だと言うのに。ぶわりと訳の分からない感情に抱き込められてしまう。 でも、そろそろ耐えられそうにない。 指先までが熱いのに、ふるふると震えてしまう。 このままではバキ、っと。もしくは、落として身体で踏んでしまうかもしれない。 ふーっふーっと息が荒くなるのも恥ずかしくてどうしようもない。 熱と快感を逃そうとしているだけなのに、興奮しきっている獣の様で、そんな自分が不道徳極まり無い。 チラッと視線をずらした先に食べ掛けのチーズケーキが写る。 あぁ、勿体無い。 最後まで食べたかった。 正直に言ってしまえば、大体は楓のチーズケーキを目的としていたはず、なのに。 食べたい、と。 じわりと眦に溜まっていた涙がぽろりと零れ落ちるが、追い討ちを掛ける様に薄いTシャツから楓の手がするりと入り込み、既に立ち上がっているそこを指で押し潰された。 「っ、ひっ」 いや、まじ無理。 「無理、も、」 「何が無理な訳?」 「先輩っ、これ、これ置きたい、どっかに置かせてっ」 純粋に快感を感じたい。 結局はこれだ。 こんな思考に頭が埋め尽くされたら、眼鏡なんてきっと力いっぱい折ってしまうかもしれない。 「えー、でもさ。お前ちゃんと分かってる?」 ーー分かっている、とは? 小さく唸りながら、まじまじと楓を楓を見遣ると十時のシャツが捲り上げられ、ヒヤリとした空調に晒される。 赤くぷっくりと立ち上がった胸の突起。 そこをついでにと舐め上げられるのを何処か他人事の様に呆然と見詰めるも当たり前にやって来る快感に、腰がビクっと何度も浮き上がった。 本当に浅ましいと言われても可笑しくは無い。 十時自身そう思うのだから。 でも、外せない視線。 益々楓がうっそりと口角を上げた侭舌を動かすのが気持ち良くて仕方ない。 もうズボンの中がどうなっているかだなんて、考えただけで恐ろしい。 それは楓も分かっている筈だが、このまま生殺しなんて流石にそこまで上り詰める事なんて無理だ。 「十時」 「な、に…」 掛けられた声にすら反応し、ひくっと身体が揺れる。 「分かってんの?」 もう一度問われるも、一体何をだろう。 えぐえぐと楓の眼鏡を持つ腕の中にいる、この本人に怪訝な目付きで首を傾げると、あからさまに吐かれる溜め息。 その息すら肌に当たれば、気持ち良いでいっぱいになる十時の乳首が健気に震える。 ぎゅっと楓を抱き締めたい。 もっと肌と肌で触れ合って、あの柔らかく繊細な髪を触って、立ち上がった乳首にも刺激を貰いたい。 「お前の食べたい、はさ。会いたいって意味なんだよ」 「…へ?」 不意にそう呟かれ、一瞬何を言われたのか理解出来なかった十時から出てきたのは間の抜けた声。 「だからぁ、お前のチーズケーキを食いたいって言う感情は、とっくに僕に会いたいって意味になってんだよ」 それを分かってんの? どこか苛ついた声音でそう言えば、十時の下半身に伸びた楓の手が硬く張り詰めたそこをぎゅうっと刺激を含ませ押し上げた。 ーーーーあ、 息が止まるかのような、それ。
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