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いつも服の下の、腹や胸とかの見えない場所ばかりを殴られた。私物をトイレに投げ込まれて使えなくされる、トイレの水を飲まされるなんて小学生みたいな虐めもあったように思う。一番堪えたのが、裸にされて写真を撮られたことだ。みっともない姿をネットに拡散してやろうか、と脅された。僕はいつも、涙を堪えてじっと耐えるしかなかったのである。
悔しくて、理不尽で、負けてなるものかと思った。高校を卒業すれば、こんな馬鹿どもとは会わずに済むようになるはず。だからこそ、こいつらが絶対行けないような偏差値の大学に入って見返してやろうと思ったのだった。それは連中との勝負で、同時に自分との過酷な戦いでもあったのである。
僕は戦いに勝った。奴らの誰ひとり、手が届かない大学に合格し、見事奴らとの縁を切って見せたのである。何度も高いところから飛び降りてやろうと思ったけれど、今はそこで堪えて本当に良かったと思っているのだ。生き抜いたからこそ自分はこの大学で安らぎを得て、そして秋穂にも出会うことができたのだから。
「絶対負けたくなくて、死ぬ気で勉強してこの大学に入ったってわけ。勉強はきっついけど、でも楽しいよ。ひとりで気楽に過ごせるしさ。……本の世界はその辛い時間を乗り越えるために、すごく助けになってくれたんだ」
「そう。凄い」
「凄くないよ。僕は、秋穂みたいに体が弱かったとか、そういうこともなかったわけだし。病気を乗り越えて頑張ってる秋穂だって充分凄いって!君に出会えて良かったって心底思っている、と、いう、か……」
調子こいて何を言い出したんだ自分、と最後は完全に尻すぼみになってしまった。顔が熱い。きっと今、真っ赤になった恥ずかしい顔になっていることだろう。すると驚いたことに、秋穂の方も少し照れたのか、ぷい、と視線を逸らして来たのだった。
「私は。……貴方が思っているような人じゃないから」
それは謙遜というより、照れて言っている言葉のように聞こえた。
ずんずん踏み込んでくる女性より、謙虚で物静かな方がタイプである僕である(後ろを歩く女性がいいというより、距離感を保ってくれる女性が好きなのだ)。ますます好感度が上がってしまって、僕はついベンチに置かれた彼女の手に触れてしまった。
びっくりしたように振り向く彼女。僕は、茹で上がりそうな顔を隠すように下を向きながら、思わず口にしてしまっていたのだった。
「凄い、って。……そう、言ってくれるだけで、嬉しい。あ、秋穂は、素敵な女性だと思う……!」
アニメや漫画やドラマでもあるまいに、何でこんなこっぱずかしい台詞を口にできるのだろう。
あまりの恥ずかしさに、またしても意識が遠ざかりそうになった。ああもう、せっかく彼女が目の前にいて、喜びで気絶している場合などではないというのに!
「……あのね。私……」
そんな彼女は、明らかに何かを言いたげにしていた。そういえば、ここ最近ずっと、彼女は僕に何かを伝えたそうにしている。一体何なのだろうか。肝心のところで僕が舞い上がってしまうせいで、すっかり機会を逃してしまっているようだったが。
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